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死して尚最強  作者: 0レンジペン
第二章 開拓者編
17/26

ギャルと不合格

 開拓者になってから早三日。最近はバイトがあり自由な時間を取れなかったが今日はお休み。


 そんな訳で僕はクローゼットの奥に眠っていたスーツを取り出して、軽くシワとホコリをとってから着替える。


「小さいな」


 初めて死んだ時に背が伸びたり筋肉がついたりした影響か、五年程前に買ったスーツがかなり小さい。無理に着れば何とかって感じで、酷いパツパツ感は否めない。


「まあ、なんとかなるか」


 いつぞやのスーツを取り出し何の準備を進めているのかと言うと、今日は葛城ハクアの事務所『プロダクション・ヴォルケ』の面接があるのだ。これさえ合格すれば、あとは異世界で青黒い角のモンスターを探すだけ。目標達成の為には絶対に落とすことが出来ない大事な戦い。


「面接までの時間は……まだ大丈夫だな」


 時計を確認し、僕は気合いを入れて準備を進めた。



――



 そんなこんなで三日後。スマホの電源をつけると『プロダクション・ヴォルケ』からのメール通知。すぐさま開くと不合格の三文字。


「まじか……」


 取り敢えず僕は気を紛らわせる為に外へ出た。



――



 どうしよう。その五文字が頭の中を縦横無尽に駆け回る。一体何が駄目だったのか。パツパツ過ぎたスーツが駄目だったのか。というか僕以外の面接を受けている人全員が私服だったし。


 面接の内容は、自分の能力で何が出来るのか、その能力で事務所にどう貢献出来るのか、みたいなやつだったが、振り返ってみてもとくに受け答えに問題はなかった筈。


 まあ、何かしら問題があったから不合格になったんだ。


「はあ」


 信号待ちの途中、深い溜め息が零れる。こうなるのなら、カミラの誘いや白雪レイの誘いに乗っていればよかった。いや、もう遅い後悔か。


 とにかくどうしよう。開拓者の免許はある為異世界に行けないこともないが、成り立てペーペー無所属の僕に依頼が来るのかどうか。百パーセント来ないだろう。


「せめて、どこかの事務所に所属したいよな」


 信号が青になり走り出す。日課になったランニングのコースを進み、不合格だった事への気を紛らわせる。


 色々と考えて、注意が逸れていたからだろうか。角を曲がった時に誰かとぶつかってしまった。僕は少し体勢を崩しただけだったが、相手は飛ばされ尻もちをつく。


「すみません! 大丈夫ですか?」

「ああ大丈夫だよ。こちらこそ前をちゃんと見てなくて――」


 ぶつかった相手に手を差し伸べたところで僕の身体が少し硬直する。


「もしかして……レンくんかい?」

「……ケンさん?」


 僕がぶつかった相手は、ユエが所属していた近所にある小さな事務所の社長。ケンさんだった。



――



「いやーまさかレンくんに会えるとは。これまた偶然偶然。それにしても随分と変わったね。ちょっと気付かなかったよ」

「そうですか? あっ、荷物ここ置きます」


 ぶつかってしまったことを謝罪していたら、ケンさんが「そんなに謝るなら、事務所まで荷物を運ぶの手伝ってくれ」とのことなので、僕は久々にケンさんの事務所『地域保安隊』へやって来ていた。僕の家のアパートから大体徒歩七分。住宅街の一角にある五十坪程の広さの三階建ての建物だ。


 現在僕達がいるのは一階の荷物置き場。ちなみに外付けの階段を登って二階へ上がると会議部屋。三階はケンさんの自宅だ。


 最後に来たのはたしか、ユエの忘れ物を届けた時だろうか。あれは一年ぐらい前だったか。……そっか、一年前はまだユエは――いや、今辛気臭くなるのはよそう。


「……レンくん、少しいいかい?」

 

 僕が荷物を置いていると先程のまでの笑顔とは打って変わってケンさんの表情が曇る。

 

「どうかしましたか?」


 僕が訊くとケンさんは深々と頭を下げた。


「今さらだが、本当に申し訳なかった! 許してくれとは言わない。本当にすまなかった!」

「ちょ……どうしたんですか急に」

「どうしたもこうしたも、魔王城掃討作戦の、ユエちゃんのことだ。全て私の責任だ。本当に! 本当に申し訳なかった!」


 ケンさんは僕に土下座をするが、それを中断させる。


「取り敢えず顔を上げて下さい。別に僕はユエのことに関してケンさんを責めたりしません。僕が責めるとすれば、ユエに全てを押し付けた僕自身です」

「いや! 私の責任だ! 君がそう感じる必要はない!」

「いや、じゃなくてですね……」


 とまあ、数分の格闘の末、ケンさんはようやく土下座をやめてくれた。



――



 話を聞くに、葛城ハクアの事務所から依頼が来て舞い上がっていた『地域保安隊』の面々。面々といってもケンさんとユエとユカちゃんと他三人程だそうだが、とにかく皆やる気で満ちていたそう。


 だが、魔王城掃討作戦の前日の晩、ケンさんは六十半ばという年齢のせいか腰を痛めてしまったらしく作戦を辞退。他の五人でということで送り出した結果、あの惨劇。


 『地域保安隊』はユエ含め三人が死亡。ケンさんは依頼を引き受けた身として、また『地域保安隊』の責任者として、かなりの罪悪感に押し潰されていたとか。


「本当に申し訳なかった」

「だから、もう大丈夫ですよ。謝罪の気持ちは十分に伝わりましたから」


 椅子に座り、ケンさんが出してくれた麦茶を飲む。


「そういえば、生き残った二人というのは?」

「ああ。ユカちゃんとハルキくんだね。ハルキくんはあの後すぐに辞めてしまって、ユカちゃんは魔王城掃討作戦だけでなくこの間ゲートブレイクに巻き込まれてしまってね。それもかなり酷いものだったらしくて、今はお休み中だよ。まあ、戻ってくるかどうか……」


 ゲートブレイク……あのハイオークのやつか。たしかにヒビキだけじゃなくて、ユカちゃんもいたな。あれは四人の開拓者が亡くなったんだっけか。休んでしまうのも無理もないか。


「レンくんはたしか就活していたとかなんとか……どうだい、職場は決まったかい?」

「いえ。今はその……僕も開拓者をやっています」

「なんと!」


 と、ケンさんは驚きを全身で表現した。


「どこかに所属しているのかい?」

「今日ちょうど不合格になったところです」


 冗談交じりに言う。するとケンさんは顎に手をやり何やら考えている様子。


「……その、もしよかったら、私の事務所に入らないか?」

「!? ここにですか?」

「ああ、今やメンバーも減ってしまって、以前のように活動できなくなっている。私もこの年齢に腰も痛めてでどこまでやりきれるのやら。だからレンくん、君がうちへ入ってくれるならとても心強い」


 ケンさんはそう言うがいくらなんでも急過ぎる。たしかに僕は無所属。異世界に行く為には事務所に所属した方がいいのはそうだが……。まあ、行く当てもないしな。どこか他の事務所に行くにしても、面接で不合格になる可能性は十分にある。それに自分で断った身であるのにも関わらず、今さらカミラや白雪レイの誘いに「やっぱ断ったのなし」と乗るわけにもいかない。


 協会の事務所となると、あれは公務員扱いだから別の資格を取らないとだし……。


 魔王城掃討作戦についての情報を、なんて考えていたが確実に事務所に所属できるならここでもいいか。取り敢えずは異世界に行ければいい。


「……分かりました。所属します」

「本当かね!? ああ、有り難うレンくん」

「まあ、ケンさんにはお世話になりましたし、軽い恩返しってことで」

「いやあ、有り難う。これで地域保安隊のメンバーは三人だ。まあユカちゃんを含めると四人か」


 ケンさんの発言に僕はピクリと反応する。メンバーが三人といっていたが、僕とケンさんで二人としてあと一人は誰だ? 魔王城掃討作戦で生き残ったハルキ? って人はやめたと言っていたが……。


「あのケンさん。僕とケンさん以外のメンバーというのは?」

「おっ、そうだったそうだった。ちょっと待っていてくれ」


 するとケンさんは椅子から立ち上がり外へと出た。聞こえてくる音から察するに階段を上がっているようだ。


「えっ? 新しい人入ったの?」

「ああ、だから自己紹介を……」


 外から聞こえてくる足音が二つになる。ケンさんと女性? の喋り声が耳に入る。


「待たせたねレンくん。紹介するよ、この子がもう一人のメンバーの――」

「あーし蕪城ラミハってんの。現役バリバリの大学生。よろぴ」


 ケンさんから紹介されたのは、見るからに部屋着姿の茶髪の女の子。彼女はスマホ片手に気怠げに下ピースをしていた。そして彼女はギャルだった。


「この子は私の姉の孫でね。彼女の両親が亡くなって姉が引き取ったんだが、その姉も今は身体を壊して入院していてね。彼女の生活が安定するまで、この事務所の三階を貸しているんだ」

「そそ。んで一年前に能力目覚めて、開拓者なって、部屋も借りてるしってなわけで、ケンじぃの事務所入ってるんだワ」

「なるほど」


 そんなこんなで僕も自己紹介。


「秦谷レンです。ケンさんとは昔からの付き合いで、ついさっきこの事務所に入りました。よろしくお願いします」

「……なんか堅苦しくね? タメ語で全然オッケーよ。なんならあーし多分年下だし」


 グイッと近付いてくる蕪城ラミハ。手でオッケーとマークを作り彼女ははにかんだ。


「じゃあ、そう言うなら……。これからよろしく」

「もち。あーしの方こそよろぴ」


 そうして僕はケンさんの事務所、『地域保安隊』に所属したのだった。

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