エピソード・オブ・白銀カミラ
アタシ、白銀カミラは早くに両親を亡くした。六歳とかそれぐらいの時だったと思う。ゲートブレイクが起きて、朝目が覚めたらアタシの家は半分無くなっていた。両親は瓦礫の下敷きとなり、叩き潰された蚊のようになっていた。
理由も分からず呆然とするアタシの目の前に、突然赤い角が生えた巨大なモンスターが現れた。
モンスターはアタシに顔を近付けて小さく囁いた。
「僕、人間きらーい」
アタシは六歳ながらに思った。「目の前にいるこのクソを殺さないといけない」と。けどアタシは無力だった。モンスターは手を天高く掲げて、アタシに振り下ろした。
ああ。死ぬんだ。
そう確信したアタシとアタシの隣で寝ていた妹を救ってくれたのが、臥雲ガロウさんだった。
――
臥雲さんに救助された後、アタシは能力に目覚めた。そしてアタシは父方の祖父母へ妹は母方の祖父母へ引き取られた。もっとも、妹と絶縁という訳ではなく、今でも偶にだけど会ったりしている。
結局、両親を殺したモンスターは逃げたそうだ。臥雲さんからそれを聞いてアタシは安堵した。
アタシがこの手であいつを殺せる。そう思ったからだ。
以来、アタシは臥雲さんのところで訓練に励んだ。青春なんてあまりない。友達と一緒に帰るとか、休日を遊んで過ごすとか、そういう子供らしいことなんて一つもない。アタシはただ、両親を殺したモンスターをグチャグチャにしてやる為に日々訓練に励んでいた。
モンスターを殺す為の技術をひたすらに学び、アタシは二十歳になった。
開拓者になれる年齢。勿論、アタシは試験を受けた。
余裕だろうなと思った。実際、臥雲さんにも「カミラなら大丈夫だろう」と太鼓判を押されていた。
いざ受けてみるとそれなりに簡単だった。そりゃあ、六歳の頃から開拓者になるため努力してきたんだ。できなきゃ困る。
筆記試験、体力試験ともに順調に進み、一番自信のある能力試験が始まった。
モンスターを倒し千ポイント稼げと言われ、周りは弱音を吐いていたがアタシは違った。アタシなら出来るという自信があった。
順調にポイントを稼ぎ、七百ポイントに差し掛かったところで、アタシは彼に出会った。
第一印象は「なんか髪の毛ボサボサした目つきの悪い奴」だった。ただ彼の纏うオーラは他の受験者とは違う不思議な凄味があった。
実際アタシのそれは的中した。
アタシは他受験者にしていたよう突然仕掛けた。アタシの能力は身体から雷を出したり、雷に変化したり、雷を纏ったりするもの。雷の出力を調節して、スピードや電撃の威力をコントロール出来る。
最初彼に仕掛けた時は、十パーセントほどの力だった。それだけで事足りるだろうと思った。事実、他の受験者はそれだけで十分過ぎた。
しかし彼はそれを目で捕らえ、躱してみせた。中々やるな、それがアタシの感想だった。
彼、レンの持っているポイントは三百だった。だからアタシのやる気は一層高まった。
そんな時だった。
門が現れ、気付いた時には黒い角のモンスターが佇んでいた。そいつは強かった。そして、アタシが強いなと思ったレンは殺された。
アタシの全てを出したが、それでも奴には届かなかった。アタシの十四年は無残にもモンスターの前に散った。腕をへし折られ、眼前に迫った死を覚悟した。
けれど彼、レンは違った。
レンは不思議と生きていた。何故かは分からない。彼の能力なのかもしれない。だとしてもおかしな点はいくつかあるが、そんなことはどうでもよかった。
彼に助けられ、彼に抱きかかえられ、さらには腕を治してもらった。しかも、彼は言うのだ。
アタシに指一本触れさせないから、あとは自分に任せろと。
ふわふわとした不思議な気分だった。今まで男にこんな扱いをされたことがなかったからかもしれない。いや臥雲さんに助けてもらった時がそうだったけ。でも臥雲さんのは尊敬とか憧れに近いものだ。しかし彼のは違う。凄く胸が高鳴っていた。
分からない。さっきまで死にかけていたのに、絶望していたのに、アタシの中には彼しかいなかった。何故だろうか。いっぱい考えても分からない。この気持ちの正体がアタシには分からない。
一度死んだ筈の彼は、先程までと比べて数段強かった。もっとも、アタシと戦っていた時、彼は手を抜いていたのだろう。モンスターと彼の戦いを見て、痛いほど理解した。本気を出せば、彼はアタシなんて一瞬だったのだろう。アタシは少し悔しかった。
途中、彼とモンスターが何処かへ消えたが、二分ほどで戻って来た。アタシは彼の勝利を疑っていなかった。何故かは分からない。けれど、彼ならあのモンスターに勝てるだろうという確信があった。
影揺れ、そこから誰が姿を現す。アタシの視界に映ったのは彼でなく、血に濡れたモンスターの方だった。
怒り。アタシの中で小さな怒りが湧き上がった。それは両親を殺された時に感じたものと似ていた。憎しみと悔しさが混じった怒りだった。
あのモンスターにアタシは勝てない。けれどどうせ死ぬぐらいならと、再び覚悟を決めた時、彼は遅れて姿を現した。
彼は何故か全裸だった。不可抗力だが、アタシは初めて男の人のアレを見てしまった。
そんな彼とモンスターは目で追えない速さで姿を消した。全くもって、アタシは反応できなかった。多分全力の時でも目で追えないだろう。
一体何処へ消えたのか。どうやら二人は地面の下へ落ちて行ったらしい。暗闇で先の見えない穴が側に出来ていた。
その穴を覗いたタイミングで試験会場に開拓者たちが駆け付けた。オーバーロード級の白雪レイさんを筆頭に突如現れた門の調査のため続々と開拓者がやって来た。
そこでアタシは保護された。
――
バイタルチェックやら、門についての報告やらが済んだところで、彼が生きていることを知った。
急いで彼を探したが、彼はもう帰ったと言う。協会のビルを出てアタシは駆けた。今ならまだ間に合うかもしれない、せめて彼に感謝を伝えられたら、と。
そして信号を待つ彼を見つけた。
彼を視界に入れた途端、アタシの中で変なスイッチが入った。彼のことを知りたい。彼との繋がりが欲しい。これが終わっても彼といたい、会いたい。
ブレーキを失ったアタシは彼にグイグイと迫ってしまった。結果、彼に引かれてしまった。
数言会話し彼と別れる。後悔がアタシを襲った。嫌われた。その言葉がアタシの脳内を駆け巡る。
胸の奥が痛い。まるで鋭利な何かに突き刺されているような、何者かに心臓を握られているかのような痛み。この痛みの正体をアタシは知らない。
アタシにはそれが、痛くて、悲しくて、モヤモヤして、そして苦しかった。




