開拓者検定試験 その二
「はぁ~疲れた」
「おっ、先輩お疲れ様です」
先輩と呼ばれた男性は自身の肩を揉みながら、椅子の背もたれに体重を預けた。
彼のデスクにエナジードリンクやコーヒーの缶が散乱しているところを見るに、ここ数日働き詰めだったことが窺える。
「また報告書のまとめっすか?」
「そうだよ。いやー参っちゃうよね。最近こうも事件続きだと」
「ハクアさんの例の事件に続き、今度は街中でのゲートブレイク。色々大変っすよね」
二人は電源の入ったデスクトップに目線を移した。画面には浦下市ゲートブレイク報告書と映し出されている。
「昼の街中にハイオークが四体、遭遇したらひとたまりもないっすね」
「ああ。実際、開拓者も四人亡くなっているしな」
「そういえば見つかったんでしたっけ? ハイオーク四体を倒した人」
その問いに、先輩と呼ばれた男性はまだ少し残っているエナジードリンクの缶へと手を伸ばしつつ答えた。
「いいやまだだ」
「早く見つかるといいですね」
「まあな。この事件自体プラチナ級の案件だ。まずいことに、それを一人で解決出来るような奴に協会の首輪がかかっていないという野放し状態」
男性は残りのエナジードリンクを飲み干して言う。
「これ以上、物騒なことが起きなければいいが」
――
試験開始から丁度一時間が経過した。今僕が持っているポイントは九十七ポイント。かなりの数のモンスターを倒したと思ったが、一時間でこれでは、千ポイントなんて夢のまた夢だ。
それと驚いたことにマップは森林の外まで続いており、森を抜けたら住宅街へ出た。ただやはり森林同様、モンスターはあらかた狩り尽くされていた訳だが。
現在の僕は住宅街エリアから再度森林エリアへと戻り、モンスターの残党を狩り終えた直後。汗はかいているが、息は切らしていない。残りの制限時間は二時間。まだまだ戦える。
「さて、そろそろあれを――」
――突如、背後から感じる気配。モンスターのではない。誰かに見られていることを直感し、それに反応して振り返る。
「誰だ?」
「ちょちょ待った待った! 俺はモンスターじゃねえ!」
両手を上げながら木の陰から姿を現したのは中肉中背といった標準体型の中年の男性。
「なんのようですか?」
僕が訊くと男性は答えた。
「すぐそこで、俺の仲間がモンスターと戦っていてよ。こいつが中々強くて、助けを探していたところなんだ」
「助け?」
僕の目線は目の前の中年男性からすぐに左手首の端末へとスライドした。マップには二つの赤い点と、三つのオレンジ色の点が表示されている。しかもかなり近くだ。
嘘は言っていないか。
「助けに応じたとして、僕に何のメリットがあるですか?」
「ポイントを分けてやるよ。あんたも欲しいだろポイント」
「ポイントを分ける?」
中年男性の発言は聞き捨てならないものだった。そんな機能があったのか、はたまた嘘か。
「分けるってどうやって?」
「端末同士を近付けるんだよ。なんら今やってみるか?」
僕の方に端末を向ける男性。
怪しさは拭えないが、試すだけならタダか。もっとも騙されて襲われようが、中年男性一人ぐらいならなんとかなるだろう。
僕は中年男性の方へ歩み寄り、言われた通り端末を近付けた。
「よし。じゃあこれで……」
男性が何か操作をすると、ピコンという音とともに僕の端末が振動した。
確認すると、『マサヨシからニポイントを受け取った』と画面に表示されていた。ポイントを分けれるのは嘘ではないようだ。
「どうだ信じてくれたか?」
中年の男性、もといマサヨシは言う。さてどうしようか。この誘いに乗るべきか否か。もしかしたら協会側がこの場面を見て僕を審査しているかもしれない。そう考えると断るより人助けをした方が印象はいい。まあ、果たして協会側がそこまで見ているのかどうか。
「疑ってすいませんでした。一応ですが、報酬として貰えるポイントはどのくらいですか?」
「そうだな……俺や仲間のと合わせて三十でどうだ?」
「分かりました。貴方の話に乗りましょう」
「よしきた! そんじゃ俺の仲間が殺られる前に早く行くぞ!」
マサヨシの後に続きながら、僕は足を動かした。
――
「あれだよ」
マサヨシの動きが止まり、促されるまま彼の目線を追う。そこには二体のハイゴブリンと戦う三人の男性がいた。
ハイゴブリンのランクはシルバー。二体であろうが、あまり苦戦する程でもないだろう。ただ能力の相性というものがモンスターと戦う上で必ず存在する。例えば火を扱う能力なのに、相手のモンスターは水を扱うといった具合だ。
相手が世間一般的に弱いとされているモンスターだとしても、能力の相性次第では死ぬ事だって有り得る。
有り得るだろうが……なるほどな。
「そういえばあんたの能力はなんだ?」
「僕は……自分の筋力を上げることが出来ます」
「そうか。ならそうだな……今は俺の仲間がモンスターの注意を引いてくれている。俺もこれから参戦して注意を引くから、あんたは裏に回ってモンスターの背後から頼む。そして、背後に注意が逸れた瞬間、俺と俺の仲間でトドメをさす」
「分かりました。裏からですね」
「ああ、くれぐれもバレないようにな」
マサヨシから指示を貰い、僕はその通りに行動する。音を立てぬよう木の陰や草むらを移動しモンスターの背後に回る。
「うぉぉおお! 来いやモンスター共!」
声を荒げるマサヨシたちを確認して、僕は二体のモンスターの背中を目指して、ゆっくりと草むらから姿を現した。
「カチッ」
突然、足下から乾いた音がした。
次に耳に入ったのは劈くような爆発音だった。
――
「ひゃっほぉぉおお!」
「あの馬鹿簡単に騙されやがって!」
秦谷レンの地面が爆ぜ、土煙が舞った直後、昌義たちは歓喜の声を上げた。
「いやー協会も性格悪いことするよな。まさか他の受験者からもポイントが取れるだなんて」
「ポイントの高い仮想敵ほど強くて、様々な攻撃手段を使ってくる。確かによく言ったもんよな」
「そんで、こいつは何ポイント持ってんだ?」
仲間の一人に尋ねられ、昌義は答える。
「九十七ポイント。中々の大物だぜ」
「うおアッツ」
「これで俺たちは合計三百ポイント。いやー馬鹿な受験者騙すだけでこんなに稼げるとは、楽だねえ」
今回の能力試験にあたり配布された手首につけている端末は、受験者の置かれている状況を常に把握しており、端末により戦闘不能という判断が下されると、協会の控え室に転移するようになっている。
そして受験者を戦闘不能にしたのがモンスターではなく他受験者だった場合、戦闘不能になった受験者のポイントが、戦闘不能にした側へと移るという隠し仕様があったのだ。
それに気付いた昌義たちはモンスターを狩ることから受験者を狩ることへシフトした。
昌義の仲間には低ランクのモンスターを二、三体程操れる者がいた。それを駆使し、助けを求めるふりをして、時には集団で、時には秦谷レンにしたように昌義の地雷生成の能力を使い戦闘不能にさせる。
彼らはそうしてポイントを獲ていた。
「さてさて、ポイントゲット――」
しかし、そう上手くいかないのが世の理。
上記の作戦がマスター級に通用するのか? 否。上記の作戦がオーバーロード級に通用するのか? 否。
上記の作戦が秦谷レンに通用するのか?
否、否、否、否、否――
――否である。
「明確に敵だと判断つく相手ほど、やりやすい相手はいないな」
未だ晴れぬ土煙の中、秦谷レンは自らその姿を現した。
「なっ!? まだピンピンしてんじゃんかよ!」
「そんな馬鹿な!」
皆が次々と声を荒げる中、秦谷レンは静かにその一歩を踏み出した。刹那、昌義含め四人は彼の姿を見失う。
「最初から気付いてはいたが、確証が欲しかった。無闇矢鱈に人を狩るのは、モンスターとなんら変わりないからな」
昌義の背後で秦谷レンはそう零した。
いきなり背後に回られたことを恐怖する昌義は更に声を荒げる。
「お前ら! こいつをどうにか――」
そして昌義は気が付いた。自分以外の仲間全員がいつの間にか姿を消していることを。
昌義は身体を震わし、端末のマップを確認する。
マップに表示されているのは、昌義自身の黄色い点と、そのすぐ後ろにオレンジ色の点が一つだけ。
「ごめんなさ――」
そこで彼は意識を失った。
なんとブックマーク数が0から1になっていました! インフルの疲れが一瞬吹き飛びました! 本当にありがとうございます!! 勿論読んでくださっている皆さんにも最大限の感謝を!




