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9 雨宿り

 その日は、朝から空が重く曇っていた。

 授業が終わり、学園の中庭を抜けようとしたとき、突然ざあっと激しい雨が降り出した。


「わっ……!」


 エレオノーラが慌てて駆け出そうとすると、頭上にふわりと布が差し出された。

 景綱の外套だった。


「濡れる。君は……駄目」


 そう言って彼は自分の肩まで布を広げ、エレオノーラを庇うように抱き寄せた。

 容赦なく降り注ぐ雨粒が、白い髪を濡らし、赤い瞳を霞ませる。


「だ、だめよ、あなたが……!」


 抗議の声もむなしく、彼の背と肩はびしょ濡れになっていく。

 ようやく軒下に逃げ込んだとき、エレオノーラの胸は早鐘のように打っていた。布越しに感じた景綱の腕の力強さに、どうしようもなく心が落ち着かない。


「……こんなに濡れて」


 彼女は慌ててハンカチを取り出すと、景綱の髪にそっと触れた。

 濡れた白髪に布を当てると、彼は大人しく目を閉じた。

 睫毛の影が頬に落ち、赤い瞳が隠れる。


 ――心臓が痛いほど高鳴る。


「すまない」

「謝らないで。あなたが庇ってくれたから、わたしは濡れずに済んだの」


 震える手を必死に抑えて、布を滑らせる。

 彼の頬を拭う瞬間、すぐそこに息遣いを感じた。


 雨音に混じって、低い声が零れる。


「君は……守りたい」


 その言葉に、エレオノーラの胸がきゅっと締めつけられた。

 視線を合わせる勇気はなく、ただ赤く染まった頬を隠すように俯いた。


 雨はまだ激しく降り続いていた。

 けれど、二人の間に流れる静かな熱は、雨よりも確かにそこにあった。

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