表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/38

4 図書館の出会い

 王族親族専用の特別図書閲覧室。

 いつものように、エレオノーラはアルベルト王太子とエミリア公爵令嬢と談笑していた。


「この間の晩餐でね、おば上とおじ上達が久々に顔をそろえたんだ」アルベルトが肩をすくめる。

「えぇ、お父様もそのお話をされていたわ。……それにしても、恐ろしい光景ね」エミリアが笑う。

「案の定、父上とおば上が口論を始めてさ。おば上は毒舌の刃が鋭いし、父上は覇気を飛ばすし、もう勘弁してほしいよ」

「他のおじ様たちは?」とエレオノーラ。

「僕とおしゃべりして無視してた」

「……慣れてらっしゃるのね」


 三人で笑い合ったその時、エレオノーラはふと扉の向こうに目をとめた。


 白い。――月明かりのような髪をした少年が、ふらりと書架を歩いている。


「綺麗な髪色」思わず声に出していた。

「一年ほど前に東の小国から渡ってきて、フォルステン伯爵家の養子になった少年だよ」アルベルトが補足する。「この一年で礼儀も読み書きもほとんど身につけたそうだ。ただ、まだ話すのは苦手らしいけど」

「まぁ、一年で……優秀なのね」

 エミリアが口に手を当てて、小さく驚いて言う。

「この国はまだ異国人差別が厳しいからね。だからこそ、彼にだけは特例で付き人が許されているんだ」


 エレオノーラは二人の会話を聞き流すように席を立ち、吸い寄せられるように彼へ歩み寄った。


 少年は棚の上の本を見上げていた。差し込む光に赤い瞳が揺らめき、透ける白髪は昼間でありながら月の光を思わせる。


「……わぁ」


 綺麗だ、と胸の奥で声が生まれる。

 彼女は椅子に腰を下ろし、小さなスケッチブックにその横顔を描き始めた。


 すると、彼の付き人が何か耳打ちする。長く結わえた白髪が揺れ、赤い瞳がエレオノーラを正面から射抜いた。


「そこの方。なぜ……私を描く?」


 澄んだ低い声。たどたどしい言葉が却って胸を打つ。


「あなたの色。この国にはない色だから」


 立ち上がってスケッチブックを抱きしめ、彼女は思わず伸ばした指でその髪に触れようとした。

 だが少年ははじかれたように距離を取る。


「あ……ごめんなさい。……そうよね。あなたも、絵を描く女なんて嫌よね」


 自嘲ぎみに笑って背を向けかけた時――


「……待つ。……待って」


 振り返ると、少年は困ったように眉を寄せ、それでも真っ直ぐに言葉を紡いだ。


「あなたの絵……美しい。あなたも……美しい人だ」


 そう言って深々と頭を下げ、彼は足早に去っていった。


 エレオノーラは顔を真っ赤にしたまま、図書室に取り残される。胸の奥で、描きかけのスケッチよりも鮮やかに、彼の姿が焼き付いていた。


◇◇◇


「これは春かな」アルベルトが呟く。

「あとで叱らねば。婚約者でもない異性に触れようとするなんて」エミリアは真顔で言う。

「へぇ、そういうものなんだ……」

 その後、二人まとめてこってり叱られたのは言うまでもない。

 けれどエレオノーラはただ、あの白い髪と赤い瞳の少年のことばかり考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ