4 図書館の出会い
王族親族専用の特別図書閲覧室。
いつものように、エレオノーラはアルベルト王太子とエミリア公爵令嬢と談笑していた。
「この間の晩餐でね、おば上とおじ上達が久々に顔をそろえたんだ」アルベルトが肩をすくめる。
「えぇ、お父様もそのお話をされていたわ。……それにしても、恐ろしい光景ね」エミリアが笑う。
「案の定、父上とおば上が口論を始めてさ。おば上は毒舌の刃が鋭いし、父上は覇気を飛ばすし、もう勘弁してほしいよ」
「他のおじ様たちは?」とエレオノーラ。
「僕とおしゃべりして無視してた」
「……慣れてらっしゃるのね」
三人で笑い合ったその時、エレオノーラはふと扉の向こうに目をとめた。
白い。――月明かりのような髪をした少年が、ふらりと書架を歩いている。
「綺麗な髪色」思わず声に出していた。
「一年ほど前に東の小国から渡ってきて、フォルステン伯爵家の養子になった少年だよ」アルベルトが補足する。「この一年で礼儀も読み書きもほとんど身につけたそうだ。ただ、まだ話すのは苦手らしいけど」
「まぁ、一年で……優秀なのね」
エミリアが口に手を当てて、小さく驚いて言う。
「この国はまだ異国人差別が厳しいからね。だからこそ、彼にだけは特例で付き人が許されているんだ」
エレオノーラは二人の会話を聞き流すように席を立ち、吸い寄せられるように彼へ歩み寄った。
少年は棚の上の本を見上げていた。差し込む光に赤い瞳が揺らめき、透ける白髪は昼間でありながら月の光を思わせる。
「……わぁ」
綺麗だ、と胸の奥で声が生まれる。
彼女は椅子に腰を下ろし、小さなスケッチブックにその横顔を描き始めた。
すると、彼の付き人が何か耳打ちする。長く結わえた白髪が揺れ、赤い瞳がエレオノーラを正面から射抜いた。
「そこの方。なぜ……私を描く?」
澄んだ低い声。たどたどしい言葉が却って胸を打つ。
「あなたの色。この国にはない色だから」
立ち上がってスケッチブックを抱きしめ、彼女は思わず伸ばした指でその髪に触れようとした。
だが少年ははじかれたように距離を取る。
「あ……ごめんなさい。……そうよね。あなたも、絵を描く女なんて嫌よね」
自嘲ぎみに笑って背を向けかけた時――
「……待つ。……待って」
振り返ると、少年は困ったように眉を寄せ、それでも真っ直ぐに言葉を紡いだ。
「あなたの絵……美しい。あなたも……美しい人だ」
そう言って深々と頭を下げ、彼は足早に去っていった。
エレオノーラは顔を真っ赤にしたまま、図書室に取り残される。胸の奥で、描きかけのスケッチよりも鮮やかに、彼の姿が焼き付いていた。
◇◇◇
「これは春かな」アルベルトが呟く。
「あとで叱らねば。婚約者でもない異性に触れようとするなんて」エミリアは真顔で言う。
「へぇ、そういうものなんだ……」
その後、二人まとめてこってり叱られたのは言うまでもない。
けれどエレオノーラはただ、あの白い髪と赤い瞳の少年のことばかり考えていた。




