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33 事件

 楽しかったパーティーの余韻に浸りながら、エレオノーラは景綱と手を繋いで会場を後にしていた。

 その一瞬の隙を突いて、複数の影が飛びかかってきた。


「やめて!」

 白銀のドレスが引き裂かれる勢いで、彼女は無理やり抱え込まれる。

「連れてけ!」

「傷物にしてやれ!」


 怒号と共に、粗暴な男たちが一斉に押し寄せる。

 景綱の手は無理やり引き剥がされ、エレオノーラは叫んだ。

「景綱様!」

「エレナ!」


 次の瞬間、久蔵たち護衛が影のように動いた。

 刃が交わり、怒声と悲鳴が交錯する。

 だが人数はあまりにも多い。エレオノーラを守りながらでは、手が足りない。


「若!」

 久蔵が鋭く叫び、一本の刀を投げた。

 景綱は振り返らず片手で受け取る。


 赤い瞳が月光を映した。


「我は東の海の彼方より来た武士の子。

 大友景綱――武門の血を舐められては困る。

 いざ、参る!」


 白銀のタキシードの裾が翻り、刹那、剣が舞った。

 王国の力任せの剣技とは異なる、流れるような太刀筋。

 一閃ごとに敵は弾かれ、倒れ、呻き声を上げて地に転がった。


 久蔵はエレオノーラを背に庇い、微動だにしない。

 その背越しに、彼女はただ見惚れていた。

 ――軍神。

 舞うように、しかし確実に相手を無力化していく姿から、そうしか呼べなかった。


「参った! やめてくれ!」

 ついにラインハルトが情けなく座り込んだ。

 取り巻きたちは地面にのび、呻く声だけが響く。


 景綱は歩み寄り、彼の目の前でしゃがみ込んだ。

「お前は知らぬかもしれぬ。武士の子は幼い頃から叩き込まれるのだ。

 ――舐められたら殺せ、と」


 赤い瞳が妖しく揺れ、ラインハルトは蒼白になった。

「ひ、ひぃっ……!」


 剣が振り上げられる。


「だ、ダメよ! 景綱様!」

 必死の声が響いた。


 景綱は気だるそうにエレオノーラを見やり、ふっと瞳を和らげた。

「……私の女神が慈悲深くて助かったな」


 剣を軽く一振りし、音もなく鞘に納めた。


◇◇◇


 やがて治安局の騎士たちの鎧音が響く。

「そこまで!」

「大丈夫か!?」


 景綱はエレオノーラの元に戻り、彼女を抱き上げた。

「帰ろう」

「えっ!? じ、事情聴取とかあるんじゃ……」

「じゃあ急いで帰ろうか」

「待て待て待て!」


 後から駆けつけたアルベルトが叫ぶ。

「気持ちはわかる。だがカーグ、待てだ。いいな?」


 騒がしいやりとりを横目に、エレオノーラの父アウレリウスがゆっくりと歩み出る。

 騎士に押さえつけられたラインハルトの前に立ち、低く告げた。


「……誰の娘に手を出そうとしたか、よく思い出しておくんだな」


 ラインハルトはその場で気を失った。


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