32 宣言と祝福
煌びやかなシャンデリアの下、二人の入場に会場がどよめいた。
白銀の装いは光を受けて輝き、誰もが息を呑む。
女生徒たちは憧れの眼差しを送り、保護者たちも「未来を担う婚約者たち」と微笑ましく眺めた。
――だが。
ラインハルト・ブリュッケンとその取り巻きが、会場の空気を切り裂いた。
「女が芸術だと? 笑わせるな」
「異国の猿に尻尾を振って、王国の恥を晒しているだけじゃないか」
「侯爵家の娘だと? 色気でのし上がっただけだろう」
口汚い嘲りが次々と飛ぶ。
ざわつく会場。アルベルトが憤然と一歩を踏み出すが、エレオノーラが手で制した。
「私は私の筆で立ち上がると決めたのです」
空色の瞳が、まっすぐに会場を射抜く。
「ついてこれない者はついてこなくて結構。それはわたしの仕事ではありませんわ。
わたしは、わたしのために。
わたしを大切にしてくれる人のために。
わたしの愛する人のために、筆を取るのです。
そして、わたしが築いた道が、誰かの道標になることを願って――あなた方になんと言われようと、わたしは歩き続けます」
その声は静かに、しかし澄んで響き渡った。
会場は水を打ったように静まり返る。
やがて、景綱がゆっくりと拍手を始めた。
アルベルトも力強く手を叩き、エミリアも誇らしげに拍手をした。次々と拍手が広がっていく。
観覧席の保護者たちまでもが惜しみない拍手を贈った。
ラインハルトは舌打ちし、悔しげに背を向けて会場を後にする。
◇◇◇
エレオノーラの肩がわずかに震えていた。
景綱がそっと抱き寄せ、低く囁く。
「……頑張ったね」
彼女は目を潤ませ、赤い瞳を見上げる。
「まだ泣いちゃダメだ。メイド達の渾身のお化粧が崩れてしまうんだろ?」
「ふふっ……景綱様、踊ってくださる?」
「もちろん」
赤と空色が交わり、二人はシャンデリアの下で舞い始めた。
光が揺れ、拍手と音楽が響く。
まるで彼らこそが新しい時代の象徴であるかのように。




