30 磐石の名声
クレメンスをはじめとした商人たちが動いた。
侯国で大々的に「E.A.Vale & Kag」の作品を売り出すことが決まったのだ。
侯国の劇団では、差別のある王国で立ち上がる女性画家と、異国の青年が手を取り合って生きる姿を演じる新作が披露された。
それはまさにエレオノーラと景綱を思わせる物語。
観客は熱狂し、人気の演目となった。
満を持して売り出された二人の合作は――飛ぶように売れた。
描いても描いても間に合わないほどに。
絵と詩を一冊にまとめた小冊子は、侯国の市井から貴族の邸宅まで、あっという間に広がっていった。
◇◇◇
その評判はやがて王国にも逆輸入される。
「異国の青年と手を携える女性画家」――その話題性も相まって、王国新聞にも定期的に風刺画が掲載されるようになった。
気づけば、王国でその名を知らぬ者はいないほどに。
「すごい……」
エレオノーラは刷り上がった新聞を抱きしめ、胸の奥に熱を感じていた。
景綱は隣で微笑む。
「貴女の絵は、雲を突き抜けて、空そのものになった」
照れ隠しにエレオノーラは肩を小突くが、頬は赤い。
◇◇◇
やがて、侯国の文化院は二人の功績を認め、エレオノーラに「文化伯」の称号を与えた。
王国人でありながら、侯国から爵位相当の称号を受けるという前例のない事態は、各紙の一面を賑わせた。
「女性画家、文化伯に叙される」
「王国初の合作芸術、国境を越える」
紙面はその名で埋め尽くされ、
――E.A.Vale & Kag。
もはや二人の名は盤石だった。




