29 合作と暗雲
中庭。
噴水の縁に並んで腰を下ろす二人。水音が静かに響き、風が髪を揺らした。
「ねぇ、景綱様は詩が好きよね」
エレオノーラがふと切り出すと、景綱はゆっくりと手を差し出した。
当然のように彼女がその手を載せると、指がしっかりと握り込まれる。
「好きだよ。国にいた時もよく詠んでいた。武人の家だったけど、父は私にそれを許してくれていた。
国の言葉で紡ぐ句は、今でも愛している。だけど……王国語で紡ぐ詩の方が、エレナに届くから好きだ」
エレオノーラの頬が赤く染まる。
「その詩に、わたしの絵をつけさせてくれない?」
「私の詩に?」
「そう、新しい絵を描きたいの。貴方の言葉で」
赤い瞳が空色の瞳をじっと映す。
「貴女が望むなら」
陽の光がルビーの瞳をきらめかせる。
握られていない方の手で、エレオノーラはそっと彼の頬に触れた。
「景綱様の瞳……本当に美しいわ」
自然と二人の距離は近づき――
「待った!」
これまで息を殺して見守っていたアルベルトが立ち上がった。
「それ以上は婚約者同士でもいけません!」
エミリアが呆れたように目を細める。
「婚約者同士なら、キスくらいならいいのではなくて?」
「友人たちのそう言った姿を見るのが耐えられないの!」
アルベルトの必死の叫びに、エミリアは声をあげて笑った。
景綱はおもしろそうにアルベルトを見つめ、肩を揺らして笑う。
つい二人の存在を忘れていたエレオノーラは、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
◇◇◇
一方その頃、学園の空き教室。
下品な笑い声が充満していた。
「女の癖に男の領分である芸術に手を出すなんて、しかもそれで商売するなんて冒涜じゃないか」
「親があの女傑だからって調子乗りすぎでは?」
「それにあの外国人。我が王国の女子に手を出すなんて穢らわしい」
「猿だからな、我慢できないんだろ」
取り巻きたちの嘲りの中心で、机にどかりと腰掛ける青年がいた。
ラインハルト・ブリュッケン。
彼は唇を歪め、吐き捨てた。
「傲慢な女と、発情期の猿か」
その言葉に取り巻きたちは再び笑い転げる。
だがその目だけは、遠くを見据え、獲物を狙う猛獣のように光っていた。




