28 影差す視線
景綱とエレオノーラは別々のクラスに通っていたが、授業が終わればいつも一緒だった。
婚約もつつがなく整い、学園内では公認のカップルとして知られている。
手を繋いで歩き、景綱が愛を囁けば、エレオノーラは嬉しそうに笑う。
笑ったエレオノーラを見て、景綱が穏やかな笑みを返し、その頭にそっと口づけを落とす。
廊下の向こうから黄色い声が響いた。
「きゃー! 今日も仲良しさんですわ!」
「見てるだけで幸せになれるわ」
少し離れて二人を見守るアルベルトとエミリアは、肩を並べて歩きながら小声で会話をしていた。
「……僕の婚約者はいつ決まるんだろう」
「陛下がお決めになるのでしょう。将来の国母ですもの。簡単にはいかないでしょうね」
「一人ものには、この光景はつらいな」
エミリアはくすりと笑い、少し得意げに言った。
「私は侯国の竜騎兵団の方と婚約が整いそうですわ」
「王弟である近衛騎士団団長と辺境伯の娘との間にできたエミリア嬢。そのお相手は竜騎兵団か……。我が国の守りは盤石じゃないか」
「言葉の割に、お顔がどうでも良さそうですけども」
「僕だって愛のある結婚がしたい」
「はいはい。わかりますわ」
◇◇◇
華やかな廊下では、令嬢たちも楽しげに囁き合っていた。
「素敵ね、リリエンタール侯爵令嬢様とフォルステン伯爵令息様。いつも一緒にいらして」
「フォルステン様って、怖い方かと思っていたけど……あんな顔もなさるのね」
「この間、荷物を持ってくださったのよ。その時に微笑まれて、不覚にもときめいてしまいましたの」
「王国の男子よりも、よほど紳士なのではなくて?」
笑い声が廊下に華やかに響き渡る。
だが、その背後にただ一人、笑わぬ男がいた。
令嬢たちは気づかないままおしゃべりを続けている。
――ラインハルト・ブリュッケン。
かつてエレオノーラを婚約破棄した公爵家の次男は、遠ざかっていく鳶色の髪を憎々しげに見つめ続けていた。




