25 熱苦しい男の孤軍奮闘
「デスク!」
ヨハンは編集長の机に手を叩きつけた。
「またお前か!」
「これを見てください! 見なければ損します! 絶対に!」
紙束を差し出す。
エレオノーラの新しい風刺画だった。
編集長は面倒そうに広げ、じっと目を凝らす。
「へぇ……面白いな」
「でしょう!」ヨハンの顔が輝く。
「いやいや待て待て。これ、E.A.Valeじゃないか」
「だからなんですか! この才能を埋もれさせるつもりですか! あなた無能ですか!」
◇◇◇
周りの記者たちが「なんだなんだ」と寄ってきた。
「面白いのはわかるけどさぁ」
「いやしかし、まだ女性は早いよ」
以前E.A.Valeの挿絵を扱っていた記者たちは作品には好意的だったが、世間の偏見に抗う勇気はなかった。
「責任は私が取ります!」ヨハンは叫ぶ。
「お前さんの首なんかたいした価値じゃないよ」
「じゃあどうすりゃいいんですか!」
「どうもこうもないよねぇ」
そこでヨハンは目をぎらつかせた。
「わかりました。私を殴ってください」
「はぁ!?」編集長の声が裏返る。
「男の顔面なんか安いもんでしょうが! それでも! 殴ってください! そしてこの作品を載せてください! お願いします!」
「熱苦しいなあいつ」
「でもちょっと応援したくなるよな」
「編集長、殴っちゃえー!」
囃し立てる声が飛ぶ。
編集長は項垂れ、大きくため息をついた。
やがて意を決したように立ち上がる。
「ヨハン。歯を食いしばれ」
「はい!」
振り抜かれた拳。
ヨハンは机を薙ぎ倒しながら床に転がった。
しんとした空気の中、編集長が吼えた。
「お前ら! 俺は殴った! だからこれを載せるぞ! 全力で売る! 今日から帰れると思うな!」
「もともと帰れてないっすー」
「しのごの言わずに働け!」
「はーい」
間の抜けた返事が飛び交う。
床に倒れたまま、ヨハンは涙を流した。
「やった……! 必ず世に出してみせる……!」
「早く立ち上がれよ」
「泣いてる場合か」
仲間たちの茶化す声に囲まれながら、ヨハンは笑い泣きした。




