2 学園にて
「あれだろ? 七光りの挿絵画家って」
「せっかく美人なのにな」
「女の癖に筆を取るなんて、どうかしてるよ」
教室で教科書をめくっていたエレオノーラの耳に、令息たちのひそひそ声が届く。彼女の悪口を言うのはいつも彼らで、令嬢たちは複雑な顔をして遠巻きに見ているだけだった。
そこへ、エレオノーラの両隣に優雅に腰を下ろしたのは、アルベルト・ヴァレンシュタイン王太子と、王弟であり、近衛騎士団団長の娘エミリア・ノルトハイム公爵令嬢だった。
「今日は嫉妬狂いのドブネズミが多いね」アルベルトが長い足を組み替える。
「王太子サマが噛まれては大変ですわ。あとで管理部に報告しましょう」エミリアが涼やかに続ける。
アルベルトは肩を竦めつつ、ふと教科書から顔を上げたエレオノーラへ目を向けた。
「オクタヴィアおば上が父上の側近に就かれたときも、まあまあ反発はあったと聞く。でも今では庶民人気もすごいし、女性の憧れだ。文官志望の女性が増えたのもその影響だろう。男たちだって、あの働きぶりには目を見張っている。……女性が男性と肩を並べる時代なんて、とっくに来てるのにね。取り残されてるのは、ああいう連中の方だ」
エレオノーラは手を止め、じっと彼を見た。
「今日はずいぶん饒舌なのね」
エミリアが朗らかに笑い、アルベルトは眉を下げて小さくため息をつく。
「えぇ……君のために言ってるのに……」
そのやり取りに悪口を言っていた令息たちはばつが悪そうに口をつぐみ、教室に微妙な静けさが戻っていった。




