17 閉ざされた扉
王都の街路を、エレオノーラは景綱と三人の護衛に守られながら歩いていた。
胸に抱えたのは、描きためた挿絵の束。
舞踏会の夜に胸に芽生えた熱を、ようやく行動に変える時が来たのだ。
◇◇◇
最初に訪ねたのは、かつて彼女の絵を載せていた新聞社。
応対に出たヨハンは、彼女の姿を見た瞬間、机を叩いて泣き出した。
「すまない、エレオノーラ嬢! いや、E.A.Vale!
あれほど“性別など関係ない”と豪語したのに……結局、載せられなかった!
私には、この芸術を守り抜く力がなかった!」
両肩を震わせるヨハンに、エレオノーラは微笑んで答える。
「いいの。あなたが本当に絵を愛してくれているのは、わかってるから」
◇◇◇
次に訪ねた新聞社では、扉の前で断られた。
「あぁ、あなたが話題のE.A.Vale? 戯言はよそで」
門前払いの冷たさに、心がひやりと凍る。
さらに別の社では、編集長が肩をすくめた。
「いい絵だと思うんだけどねぇ……難しいよね、世間は。うちも波風は立てたくない」
やんわりとした断りに、エレオノーラは胸の奥がしぼんでいくのを感じた。
◇◇◇
夕暮れの街路。
落ち込んでうつむくエレオノーラの背に、そっと手が添えられた。
驚いて顔を上げると、景綱の赤い瞳が優しく揺れていた。
「……大丈夫」
彼の口から紡がれた王国語は、以前よりずっと滑らかだった。
「あなたの絵は、絶対に……認めてもらえる」
夕陽の光を浴びながら、彼は静かに微笑んだ。