15 大舞踏会
王宮の大広間は、光の洪水だった。
シャンデリアの輝き、磨き上げられた床に映る宝石のきらめき。
王家主催の大規模舞踏会には、貴族も役人も学者も集い、王国が新時代へ踏み出そうとしていることを示していた。
音楽が止み、壇上に立ったのは王弟エドワードだった。
かつて留学し、制度を学び、学校をはじめとした様々な施設や制度を作り上げた。
その声は若々しくも力強かった。
「学びも、仕事も、美術も。
すべては本来、男女の別なく開かれるべきものだ。
古き偏見は我々の未来を縛る足枷にすぎない。
これからの王国には、誰もが能力を示せる場所が必要だ。
……私は、その改革を支える全ての者を歓迎する」
喝采とざわめきに包まれる大広間。
演説を終えた王弟エドワードは、視線を巡らせ、ゆっくりと壇上を降りた。
人々の間をまっすぐに歩み、足を止めたのは――エレオノーラの目の前だった。
にこり、と笑みを浮かべ、片手を差し出す。
ただそれだけ。言葉はなかった。
けれど、その微笑に込められた意味を、エレオノーラは直感で理解した。
これは……わたしのために。
驚きと熱が胸を満たす。
他人事のように聞いていた演説が、急に自分のこととして迫ってきた。
エドワードは、彼女の反応を確かめるように小さく頷くと、颯爽と人混みの中へ戻っていった。
残されたエレオノーラは、その背を見送る。
胸の奥で名のつかぬ熱が、確かに大きく燃え広がっていた。
ざわめきが広がる中、オクタヴィア特別秘書官が一歩進み出る。
背筋を伸ばし、母ではなく「宮廷を率いる働く女性」としての声で言い切った。
「殿下のお言葉、まさしく。
私たちは、宮廷の一員として、そして女性として、道を切り拓き続けます。
いかなる嘲りがあろうと――時代は、もう後戻りしません」
会場に凛とした沈黙が落ちた。
続いて国王コンスタンティンが立ち上がる。
冷徹な眼差しを持つ王は、一瞬だけ妹であるオクタヴィアに視線を送り、すぐに正面へ向き直った。
「改革は容易ではない。だが必要だ。
王国は立ち止まらぬ。
私とて、そのために王冠を戴いているのだ」
威厳に満ちた声が響き、広間の空気を支配した。
◇◇◇
その言葉の雨に打たれながら、エレオノーラは静かに目を閉じた。
耳に届く旋律、人々の表情、揺れるドレスの裾。
――そのすべてを、心の中で絵に描いていた。
わたしは……ただ描きたいから描いている。
けれどもし、この時代が変わろうとしているのなら。
私の絵も、その証になれるのだろうか。