表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/38

13 描きたいから描いてる

 放課後の中庭。春の風に桜に似た花びらが舞い散っていた。

 エレオノーラはベンチに腰かけ、スケッチブックを広げていた。

 ペン先が紙を滑り、木々や鳥たちの姿が次々と描き留められていく。


 ふと影が落ちる。見上げると、景綱が立っていた。

 赤い瞳がスケッチブックをじっと見つめている。


「……また、描いている」


「ええ」

 エレオノーラは軽やかに答え、鉛筆を止めなかった。


「なぜ、描く?」


 短い問いかけに、エレオノーラはペンを置き、空を仰ぐ。

 柔らかい光を浴びながら、子どものように微笑んだ。


「だって……描きたいから。

 評価されなくたって、誰に笑われたって、描けるから。

 それだけで、十分なの」


 あまりにも無邪気で、あまりにも真っ直ぐな答え。

 まだ社会や時代の重さを知らない幼さがそこにあった。


 けれど景綱は、そんな彼女から目を離せなかった。

 風に白髪が揺れ、赤い瞳がわずかに緩む。


「……眩しい」


 小さく洩れた言葉は、彼女には届かなかった。

 ただ、黙々とまた線を重ねる音だけが、二人の間に静かに流れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ