12 さらなる孤立
朝の教室。ざわめきの中で新聞が広げられ、令息たちの笑い声が響く。
「見ろよ、やっぱり挿絵が消えた」
「当然だな。女の筆に金を払うやつなんていない」
「婚約破棄された傷物、これで完全に終わりだ」
エレオノーラは机に座り、静かにスケッチブックを開いた。
聞こえているはずの言葉に反応せず、淡々と鉛筆を走らせる。
「……下卑た声が耳障りだな」
低く響いたのはアルベルトの声だった。
王太子はゆっくりと立ち上がり、冷ややかな視線を令息たちに向ける。
「未来の王に仕える身でありながら、学園で令嬢を嘲るとは。恥を知れ」
令息たちが一瞬で凍りつく。
隣にいたエミリアも立ち上がり、朗らかな笑みを浮かべた。
「そうね。王家の血を引くオクタヴィア様の娘を“傷物”呼ばわりするなんて、勇気があるのか愚かしいのか……。
どちらにせよ、今の発言はすべて管理部に報告させてもらいますわ」
教室の空気が一変する。令息たちはバツの悪い顔で口を閉ざした。
◇◇◇
エレオノーラは手を止めて二人を見上げた。
「今日もずいぶんお喋りね」
アルベルトは肩をすくめる。
「君のためだよ。……少しは感謝してほしいんだけど」
エミリアは明るく笑い、エレオノーラの手元を覗き込んだ。
「ほら、気にせず描き続けて。おば様の血筋は、強くて美しいんだから」
窓の外では暖かい風が枝を揺らしていた。
孤立の只中でも、エレオノーラには確かな味方がいた。