天使はいるのか?
私は可愛い。それは周知の事実だ。ただ、かわいいことは、必ずしもプラスに働くかというとそうではない。最近この店にも店に被害をもたらす客
、いわゆる“迷惑客”がやっくるようになったのだ。迷惑客にも多種多様な種類がいる。例えば私にいいとこを見せようとするやつ。こう言うタイプは、全く関係のないお客さんに喧嘩ふっかけて、自分の強さを自慢しようとする。ドヤ顔でイキっているが、そういうやつほど弱かったりする。
あとは、私を口説こうとするやつ。
「あ、お姉さん、お姉さん。ちょっとそこのカフェでお茶しない?」
的なことを言ってくる。正直めんどくさい。あまりこういうことは言わないほうがいいと思うが、そういう奴に限って、顔が終わっている。頭の中が下半身で構築されているような人は、とんでもなく迷惑である。こういう人には、猫の目で睨みつけてやる。そうすると怖気付いてどこかへ行ってしまう。情けない。
そんな奴らが今日も今日とて、元気にやってくるのであった。今日は午前10時に、サーベルのために取り寄せた商品を受け取ってもらう日だ。
私は前回に命令を受けたので、なるべくいつも通りのテンションで、少しワクワクしながらサーシャを待った。しかし10時になって現れたのは、全く知らない男であった。普通のお客さんかな?と思っていたら、そんなことはなかった。男は店に入ると、真っ先に私のいるレジにやってきた。
「お姉さんはこの世界に天使がいると思う?」
まさかの第一声に驚いた。こんなやつでも、接客してあげなければならない。これだから接客は嫌なんだ。
「わかんない」
私はなるべく、こういう時は塩対応を心がけている。
「僕はね。いると思うんだ」
うわ、どうでもいい。早く立ち去らんかなこいつ。
「天使っていうのは、君のことだったんだ」
黙れよ。こんなセリフ、自分の好みな女性に言いまくってるだろ。
私は猫のような鋭い眼光を、このクソ客に向けているのだが、なかなか逃げやしない。
「いつか会えると思ってたんだ。君みたいな人にね。そうやって猫のような眼差しで、僕を見てくれるなんて、ゾクゾクしちゃうよ」
本当に気持ちが悪い。ぺちゃくちゃ喋っている迷惑客に対する私の目は軽蔑から、紛れもない殺意に変わった。しかし、殺しは良くないので、私は愛想笑いで「私困ってますと」周りの人に伝えた。しかし助けてくれるものはいない。早く退かないかなという顔をしながら、レジに並ぶお客さんがいるのに、こいつは全くそれに気づかない。私は全て右から左に受け流していたが、とうとう我慢の限界に達した。
「あの...」
私が声を荒げようとすると、サーバルキャットを抱えた誰かが間に入ってきた。
「店員さんが困ってるのわかりませんか」
「あ?なんだテメ...」
なんと助けてくれたのは、私の王子様であるサーシャだった。この国の王子様にテメェと言ってしまった迷惑客は、顔面がサファイアよりも青かった。
「す、すみませんでしたぁぁ!」
半泣きで迷惑客は逃げてしまった。腰抜けがナンパするんじゃないよ!と私は心の中で叫んだ。
「あ、ありがとう。サーシャ」
「全然いいよ。あんなクソ客、君のお店には似合わないよ」
かっこよすぎて直視できない。この世界に天使はいました。
「ねぇ、目逸らさないで。今まで通りって言ったよね」
「は、はひ」
も、もう心がもたない。
「頼まれてた商品とってきます‼︎」
私はそう言って、逃げるように裏へ入った。
商品と手に取り、深呼吸をして息とメンタルを整えた。
「はい、これ頼まれてた商品ね」
「うん。いつもありがとうね」
「いえいえ」
私はサーベルちゃんを撫でた。私と触れ合うたび、サーベルちゃんは笑顔になっていく。本当に可愛い。天使みたいだ。
私はサーベルちゃんを撫でて思った。
「サーシャは天使がいると思う?」
「天使?うーん...。あんまり考えたことないね。でも今考えると、天使はこの世界に2人いると思うんだ」
「誰なの?」
「それは教えないよ」
「そっか、じゃあ、また来た時に教えて」
「うん。気分が向いたらね」
サーシャはそう言って去っていった。
サーシャの天使って誰なんだろう?私だったらいいな。