王子様の命令には逆らえない
私は当たって砕けろ精神で行くと決めたのに、いざ目の前にしてみると、ドキドキして話せなくなる。
なぜなら会うたびにかっこいいと言い続けた相手が、この国の王子様であったからだ。
「やあ、シオリ!今日もきたよ!」
満面の笑みでやってくる王子様。私はいつも通り
「いらっしゃい」
とはにかむつもりなのに、緊張して言えない。そのせいか
「い、いらっしゃいませ」
と、かたくなってしまった。サーシャは眉間に皺を寄せた。少し違和感を覚えたのであろう。
「じゃあ今日もいつものくれるかい?」
「か、かしこまりました」
いつものようにしようとしても、体が言うことを聞かない。何かに乗っ取られたかのように、ずっとぎこちない。
「いつものやつです」
「あ、ありがとう。どうしたの?なんかあったの?」
王子様に気を使わせてしまった。
「い、いえ、なんでもありません」
サーシャは少し不機嫌そうだ。
「きょ、今日はお会計はいいので、このまま持っていってください」
「いや、それだと犯罪になっちゃうでしょ?いつも通り払うよ」
サーベルちゃんも少し異変を感じていたようだ。顔が歪んでいる。
「はい。こちら商品です。ありがとうございました」
私は目も合わせられず、紙袋に商品を入れて、そのままそそくさと渡した。
でも、サーシャは商品を受け取ってくれない。私は戸惑った。
「ど、どうしたんですか?受け取ってください」
私の言葉を聞くと、サーシャは恥ずかしそうに言った。
「なんでいつもの言ってくれないの?」
「え?いつもの?」
「い、いつもかっこいいって言ってくれるじゃんか」
私のかっこいいが王子様の耳に届いてる?王子の耳が少し赤かった。
「サーベルちゃんもちょっと不機嫌だよ。いつもの言ってあげないと」
私(無類の猫好き)が猫様をがっかりさせてどうする。私は覚悟を決めた。
「サーベルちゃん。今日も可愛いよ」
と言って撫でてあげた。サーベルちゃんは相変わらず、ゴロゴロと喉を鳴らした。
「僕は?」
私は前のように言おうと思ったが、なぜか急に恥ずかしくなってしまって、何も言えなくなってしまった。目も合わせられない。
「ねぇ、僕は?」
「きょ、今日もかっこいいで...す...」
私は精一杯目を合わせたが、目線を意識しすぎてすこしどもってしまった。私は茹蛸よりも真っ赤っかに染まった顔を、後ろを向いて隠した。
「あ、ありがとう。元気出たよ」
なんか王子様引いてない?気のせいかな?
「ていうか、本当に今日どうしたの?なんか嫌なこととかあった?」
「あの、サーシャさん、あなたこの国の王子様なんですよね?」
「え、なんで知ってるの?」
「友人が教えてくれました。私は今までとんだ粗相をしてきたと反省しております!」
「ちょっと待って!頭上げて!別に不快に思ったことないから!だから今まで通り接して!」
「でも...」
私は拒否しようとした。
「いや、これは王子様からの命令だ!今まで通りで頼む」
「わっわかりました!」
私は王子様の命令には逆らえないので従った。
「じゃあまた来るから、その時に今日みたいな態度取ったら、どうなるかわからないからね」
「は、はい...」
これ、どうすればいいの?