鳩に豆鉄砲
あの爽やかイケメンのサーシャは、定期的にうちの店にやってくるようになった。
「あ、いらっしゃい、サーシャさん!」
今日も相変わらず、サーベルちゃんを抱えてやってきた。サーシャとサーベルちゃんの来店は、私の目の保養と化していた。
これが恋なのだろうか。
「今日もいつものやつをくれないかな」
「はい、あれね」
私は敬語を使わなくていいよ、と言われたので、友達のような感覚で話している。でも周りの人は私が敬語を使わないと、面食らった顔で私を見てくる。イケメンと仲良く話せていることが、そんなにも羨ましいのかな?と私は思っていた。
私はいつものペットフードを持ってきた。
「はい。やっぱりサーベルちゃんは可愛いね」
私はサーベルちゃんをヨシヨシする。これも日課だ。サーベルちゃんは甘えた声を出す。可愛すぎる。好きが止まらないのはこういうこと。
「サーシャもかっこいいね」
これも日課だ。
「ありがとう。いつも褒めてもらえて嬉しいよ。サーベルちゃんも嬉しそうだよ」
いつもこういうと、くしゃっと笑ってくれる。
私はこの笑顔を毎度拝むのが好きなのだ。初めてかっこいいって言った時は、本人も周りのお客さんも、鳩に豆鉄砲を食らったように驚いてた。
ベラにグイグイ行けっ!と言われていたが、その塩梅がわからず、さすがに突っ走りすぎたのではないかと思っている。
「じゃあまたくるね」
「待ってるね」
今日もまた颯爽と去っていった。
すると、すれ違うようにして、ベラがやってきた。
「よっす。なんでサーシャ様がこの店に来てるの?」
サーシャ様の部分に少し引っかかったが、特に気にすることもなかった。
「よっす。あれ常連さんだよ」
ベラは驚いた。
「え?常連さんなの?」
「うん。もうタメ口で話せるくらい仲良くなった」
さらにベラは驚いた。
「タメ口なの?」
「うん。あといつもあの人に、かっこいいって言ってる」
ベラは開いた口が塞がらない。そのまま顎でも取れてしまうのではないか。
「もしかして、サーシャ様がどんな人かはご存知?」
「ないよ?」
ベラは眉間にしわを寄せた。
「ちょっと言いづらいんだけど、あの人この国の王子様だよ?」
「は?え。王子って、あの王様の息子を意味する王子?」
「はい。その通りでございます。あなたがタメ口で、かっこいいと言っている人は、王子様なんです」
私は頭が真っ白になった。
「じ、冗談がお上手で」
「いやガチだけど?そもそも何でかっこいいなんて毎回伝えたりするのさ」
「いや、ベラがグイグイ行けって言うから」
「言ったけど、まさか王子様に、毎回かっこいいなんて言うと思わないでしょ」
「いや、身分差あっても、この恋実らせるから」
「ガチでいってらっしゃいます?」
「ガチです」
私は決めた。こんなのは当たって砕けろだ。絶対手にして見せるんだから。