人気のヒミツ
この街は仕事が多いくせに、ペットを飼っている人があまりにも多い。そのせいか、私のペットショップは意外にも賑わった。
特に私が猫になって厳選したグッズ達は、ペット達に人気があって、飛ぶように売れた。
さらにペットを飼ってない人まで、私のお店に来てくれた。あの時助けてくれたベラもよく来てくれた。ベラとは年齢が近かったこともあって、良き友達となった。
開業して1ヶ月が経とうとしていた頃、ベラからこの店の評判を教えてもらった。
「このお店の評判はかなり良いよ。ペットからはグッズがいいと評判だし、飼い主さんからは店員さんが可愛いと評判だよ」
「え!?私が可愛いと評判!?」
「うん。シオリのことが可愛いってみんな口を揃えて言ってるんだよ。恋できるかもしれないね」
だからやたらペットを飼ってない男性客が多いわけか。
「恋なんて言ったって、そこら辺に私のタイプな独身男性なんていないよ」
「いや掴み取るんだよ。タイプな男を」
「ベラは勇気があるから出来そうだけど、私はねぇ、勇気なんて微塵もないから」
「シオリは自分が可愛いこと忘れてるの?せっかく可愛いのに、グイグイ行かないでどうすんの?」
「まあ、ごもっともかもしれないけど」
「シオリの猫みたいな顔見てると、癒されるもん。もう猫なんじゃないの?実は猫に変身できる人間だったりして、なんちゃって」
「え、なんで知ってんの?」
「え?」
「なんで私が猫になれること知ってんの?」
「え、適当に言ったんだけど。そんなこと知らないよ」
現在進行形で、空白の時間が過ぎていく。これはすべらない話のオチを、噛んで台無しにした時よりも気まずい。
「えっと、私、猫になれるの」
「ちょっと見せて!」
私はお店の裏へベラを連れて行った。
私は指パッチンをした。
するとポンと音を立てて、猫の姿になった。
「え...。マジじゃん...。す、すごくかわいい...!何これ天使じゃん。やっばぁ...!人間の時も可愛いのに、猫になれちゃうとか、可愛いとかの次元超えてるって」
ベラに褒めちぎられて、自己肯定感の低い私でも、さすがに天狗になってしまいそうだった。
「あっ。照れてる」
とベラに微笑まれた。
私は飛び上がり、人に戻った。
「どうだった。猫の私」
「え、なんかもう、凄すぎて、やばい」
ベラの語彙力の低さから、どれだけテンションが上がっているか、なんとなく予想がついた。
「私、恋してみる」
「うん!がんばって!」
そう意気込んではや2ヶ月。
なんの進展もないまま、私はただの変な能力を持った、ペットショップの店長となってしまった。
ただ客足はまだ減らない。
オープンしてから3ヶ月経った今でも賑わっている。相変わらずペットを飼っていない男性の客も減ってはいない。
そんな現状の中で、今日は少し特別なことが起きた。なんと私のドストライクの男性が、来店してきたのだ。周りも騒然としている。みんなイケメンを見て、呆気に取られているのだろうか。
私を見つけたイケメンは、爽やかな笑みを浮かべて、私の方へ来た。
「こんにちは、店主さん、僕はサーシャ・アバカロフと申します」
「私はシオリです」
私はドキドキしながらも、平然を装って接客する。
「よろしく。僕のペットのサーベルちゃんに、良いものを買ってやりたいと思ってきたんだ」
と言いながら脇に抱えていた、サーバルキャットを私に見せてきた。サーバルキャット飼育が難しい種だ。なんせ凶暴で、日本ではイエネコとしての飼育が禁止されている。そいつを飼い慣らすなんて、なんて男なの?
「たとえばどのようなものをお探しでしょうか」
「最近、この子が大きくなったから、ベットが小さくて、苦しそうなんだ」
「なるほど...。うちで作りましょうか?どこでも売っている市販のやつか、オーダーメイドか選べますけど」
「じゃあオーダーメイドにしようかな」
「ありがとうございます。ではサーベルちゃんの体長などを測らせていただきます。こちらへどうぞ」
私は自分の手作り工場へ案内した。別に密室で猫含めず、2人っきりになりたかったとか、そういうわけではない。決して下心なんてものはない。
「では測っていきますね」
「あ、シオリさん気をつけて。この子、少し凶暴なところがあって」
「大丈夫ですよ」
私は生粋の猫好きだ。そしてペットショップの店主でもある。だから猫の接し方なんか余裕でわかる。
私の思惑通り、あのサーバルキャットでも、懐いてきた。私の猫愛を舐めるでない。
「すごい!サーベルちゃんがここまで懐いてるのは初めて見た」
私は嬉しかったが、あまりにも懐きすぎじゃないか?私の手に頰を当ててすりすりしてきたので、そんなに私のことが好きなのか、と不思議に思った。
「これで終わりです。3日後に取りに来てください」
「わかった。ありがとう、シオリ!また今度!」
そう言ってサーシャは颯爽と走って行った。走って行った。