噂人発見?
私は猫になれる。
しかし、この能力をフル活用しているのは、恋愛ではなく尾行。
私は恋するどころか、面倒ごとを処理しているだけになっている。
こっちは恋するためにこの世界きたんだよ!
* * * * *
「今日は東に行くの?」
同棲してるんじゃないかくらいの頻度で店にやってくるベラに、やることを昨日の夜に少しだけ伝えていた。
「そう。東にいるやつを捕まえるためにね」
「なんかかっこいいな」
今日、私はアスターニーと戦うつもりだ。
戦う決心をしたのは、昨日の警察に相談した日であった。
〜昨日〜
私は警察署までやってきた。
「あの〜。少し相談があるんですけど」
「なんですか」
むすっとした感じで話す警察官。
私はなんだこいつ、と思いながら話を続けた。
「実はある噂を勝手に流されt...」
「う、噂ですか!?」
噂という言葉を聞いた瞬間、警察官の顔色が変わった。さっきまであんなに無愛想だったのに、今ではその面影は感じられない。
「はい。勝手に噂を流されたんです」
「ああ、そのことですか。実は私たちもその事件を追ってるんですよ。ていうのも、最近変な噂を流す輩が後を絶たないんですよ。この国では、被害者の名誉が傷つけられるような噂は、法律で禁止されているんです。この国は噂が好きなので。我々警察は逮捕しようと捜査を進めていますが、なんせわかっていることが、これまでの被害者の噂を流している人が同じであることと、疑いがある人を数人リストアップしただけでして。あっあと、警官がこんなこと言ったらあまり宜しくはないと思うのですが、なぜか女の人、特に世間一般的に顔面偏差値が高いとされる人が被害に遭うんです」
「なるほど」
「ていうか、あなた、可愛い店員がいると噂のペットショップの人じゃないですか。あっ。噂ってあのニコットランドさんがハレトークで言ってた話ですか?」
「ああ、はい、それです」
「それならなんとなく、どんな被害に遭われているのかはわかりました。ではお帰りいただいても大丈夫です」
「いえ、帰りません。実は私、犯人の情報を知ってるんです」
「え!本当ですか?」
「はい。私のお店の電話に匿名の通報がありまして、その人が言うには、広めた人は『天使の発見者』の異名を持つ、伝説のナンパ師アスターニーという男らしいです」
「あっ!アスターニー!その人が一番警戒してる人です。可愛い人が狙われるのも、ナンパ師だったからと言うわけですね。しかし、厄介ですね」
「厄介なんですか?」
「えぇ。何度も彼の家を張り込み捜査を行なっているんですが、ずっと姿を現さないんですよ。なんで、証拠とか全然集められなくて。わかっていることは1匹の猫がよく家の近くをうろついていることぐらいですかね。こちらが猫の写真です」
私は猫という言葉を聞いて、一瞬ある事が頭をよぎった。
もしかして、アスターニーって猫になれるんじゃないのか?私も猫になる時は尾行などの、正体がばれてはいけない時に使う。もしかしたらアスターニーも同じなんじゃないのか?ていうことは、アスターニーは転生者...。
いやいや、まさかね。
「その猫、捕まえてみると...」
いや待て。私は言いよどんだ。
もし、彼が猫になれる、なんて記事が出たら、私が危うい。
猫になれる人は犯罪者、なんてレッテルを貼られたら、魔女狩りのようになるかもしれないし、猫になれる人の謎を解明しようとする輩に捕獲されるかもしれない。
「どうしたんですか?急に黙って」
「いえ、お気になさらず」
私はここで、アスターニーと戦うことを決意した。
* * * * *
私は東へと向かった。
エイヨーグの中心は栄えているが、アスターニーが住んでいるとされる東側や西側など、少し離れた場所は山などが多い。日本で言う愛知県、かな?
私は人が少なくなったタイミングで猫になった。
そのまま数分歩いていると、昨日見せられたそっくりな猫を見つけた。写真よりも少し汚れている。
私は思わず声をかけた。ちなみに猫語である。
「お前、アスターニーか?」
「うぇっ!?なんでばれた!?」
ものすごい動揺。これはアスターニーで間違い無いだろう。
「ていうか、お前、ペットショップの店員やねぇか。なんで猫になっとんだ?転生者か?それともビョウトか?」
ビョウト?
アスターニーの口から、聞いたことのない言葉が飛び出してきた。
「ビョウトってなんだ?」
「てことはお前は転生者やな。ビョウトってのは猫の人と書いて猫人や。猫人はごく少数、存在しとる」
「猫人になれることに意味はあるのか?」
「特にない。ただ猫になれるってだけや。俺だって猫になれるなんて知らんかったし、いつからなれるのかも知らん。何もわからん。ただ、猫人だとバレると研究室送りや。実験台にされて、最悪死ぬらしい。お前は転生者だろ?だけど、猫人と間違われるかもしれねぇから気をつけろよ」
なんだこいつ。地味に優しいな。
「アスターニー、一つ聞きたい事がある」
「なんや?」
「噂を流したのはお前か?」
「噂?なんの話や?」
「しらばっくれるのか?」
「いや、ガチでしらんから」
しらばっくれるのかと思ったが、否定がガチっぽい。
「本当に知らないのか?」
「本当に知らん。第一、噂は大嫌いや。俺はただのナンパ師や。噂なんてゴミみたいなものに惑わされとったら、人の第一印象が崩れて、ナンパなんか到底できんわ」
何を言っているかはわからないが、とにかく噂が嫌いな事がわかった。
「じゃあ、噂は誰が流したんだ?」
「しらんよ。そんなん俺に聞くなよ。そもそもなんで俺が疑われなあかんのよ」
「私のファンが電話で言ってたから」
「テメェのファン?そんなん信じるとかアホか?」
「アホじゃねぇし」
でもアスターニーのいうことは正しい。知らない人の言葉を鵜呑みにしていた。
「その電話とか録音してねぇのか?」
「してるよ」
「ちょっと聞かせろ」
「わかった」
「おい待て、今人状態になんなよ」
「わかってるわ。アスターニーの話聞いた後だし、ちゃんと警戒してるから」
私はドアに付いた、猫が1匹通れる扉からアスターニーの家に上がった。
私は猫から人になり、背負っていたバッグからボイスレコーダーを取り出した。
「どうぞ」
無言で受け取るアスターニー。
感謝ぐらいあってもいいじゃない。
『もちろん。広めた人は『天使の発見者』の異名を持つ、伝説のナンパ師アスターニーという男です』
アスターニーは眉間に皺を寄せながら、ボイスレコーダーから聞こえる低い声を用心深く聞いている。
「誰かわk...」
「黙ってろ」
話すことを許されない。
謎の緊張感に包まれているこの部屋。聞こえてくるのは録音された声と私たちの息遣いだけ。
「こいつ、俺知っとるかも」
「まじ?」
「こいつ、ブランガンじゃねぇか?」
「ブランガン?」
「ああ、この辺りじゃ有名や。噂会の帝王って言われとる」
噂会の...帝王...。
「にしてもブランガン知らんとか、世間知らずすぎるやろ」
「別にいいでしょ」
ずっとにやけてるアスターニーに、少しイラついた。
「アスターニーはブランガンの居場所わかるの?」
「知らん」
「はぁ?」
「あいつは人前に現れん。突然現れて突然消えてしまう。神出鬼没なんや」
「う〜ん。めんどくさいわね」
「やろ?俺も探しとるんやけど、全く見つからん。顔とかわかっとんのに」
伝説のナンパ師の人脈でも辿り着けない人。
とても手強い敵な気がする。
「マジでどこにおるんやろか。頑張って探してみるか」
「なんか尻尾掴みたいな。あっそういえば、アスターニーが犯人って警察に言っちゃった」
「はぁ?」
「探す側じゃなくて、探される側かも」
「最悪や」
警察に追われること間違いなしのこの状況。
どうする私?
どうするアスターニー?




