デストロイ・ザ・ハウス
「明日には取り壊すから!抵抗したらわかってるわよね!ぎゃぉぉぉん!」
またきたよこいつ。
こいつは捨て台詞を吐いた次の日から、毎日取り壊すまでのカウントダウンを、しに来るようになった。
暇かよ。
結局、カウントダウンして、一通り文句を言ったら帰る。私はこれが続く毎日に、ノイローゼ気味になっていた。
急にきては罵詈雑言を浴びせて、勝手に満足して帰っていく姿に、ちゃんと殺すことまで考えた。
しかし、私はここぞと言う日まで復讐を我慢した。
* * * * *
今日が解体日。結局、誰も止めることができず、自分の店が解体される様子を、指を咥えて待つことしかできなかった。
「はっはっは!今日でこのお店はおしまいよ!解体業者!やっておしまい!」
とても機嫌の良い王妃の姿に、とても腹が立った。
解体業者達は爆弾の起爆装置を持っていた。
「ほら。こんなに国民も集まってるわ!まさに烏合の衆ね。あなたのお店が壊れていく姿を見たくて集まってきたのね!いい気味だわ!ほらカウントダウンするわよ!」
5・4
周りの民も王妃に合わせて、カウントダウンをしていた。王様も、サーシャも、ニコライさんも。
みんな寝返ってしまった。
3・2
みんな笑顔だ。
私はその場で崩れ落ちそうになった。
1
ドカーーン!!!
爆発音と共に私の建物は崩れ落ちた。
と思ったのが、私のお店は無傷であった。
「なんで音がしたのに崩れてないのよ!!」
王妃は私の店が壊れないことに、怒り心頭に発した。
爆発したのはまた別の場所であった。
「どこで爆発したのよ!」
王妃はぷんぷんしながら、爆発音のした方へと向かう。
その王妃の後ろを、国民達は笑いを堪えながらついていった。
かなり歩いただろう。
爆発音がしたのはエイヨーグの隣町、チュドラであることがわかった。
さらに先へ進んでいくと、王妃は何かを見つけた。
「な、なんなのよこれ...」
爆発音がした場所にたどり着いた。
王妃が見つけたのは、粉々になった民家だった。
絶望している王妃に向かって、解体業者は言った。
「あなたの実家、破壊させていただきました」
そう、爆発したのはチャドラにある、王妃の実家だった。私、いや私だけではない。この場にいる民衆すべてがこうなることを知っていた。
ではなぜ、王妃の実家が爆発したのか。
時を遡ってみよう。
* * * * *
この計画はたくさんのラッキーでできた計画であった。
私が図書館に行った日。
あの後、猫になって王宮に侵入し、王妃が実家に帰る日を確認。実家に帰るのはまさかの翌日であった。
これがまず一つ目のラッキーである。
次の日。
店から猫になって、王妃の後ろを尾行。しかし、尾行がバレて一度だけ蹴り飛ばされた。私は野良猫を蹴飛ばす王妃のエピソードを忘れていた。
結局、私は実家の位置を特定することに成功。
私は急いで店に戻って、ベラが来るのを待った。
ベラが来ると、私はすぐにとっ捕まえて、裏の部屋に連れていった。
「私、王妃の実家の位置を突き止めたんだけど、その時に思い切り蹴られたんだよね」
「えぇ...。蹴飛ばすとかありえる?」
王妃の行動にドン引きするベラ。ドン引きするのも無理はないと思う。
「なんか、いい復讐方法ないかなぁ」
ベラは少し上を向いて考えた後、名案が思い浮かんだかのように、表情を変えた。
「実家爆発するのはどう?どうせこの店を破壊する方法は爆発でしょ?」
「いや、実家爆発って色々許可取らないとダメでしょ」
「サーシャとか、王妃の両親とか、王様とかに聞けばいいんじゃね?」
「そんな簡単に言ってもねぇ」
口だけではなんとでも言える。爆発だってあまり現実的ではない。
私が頭を悩ませていると、サーシャがやってきた。
「どうも。ここで作戦会議が行われると聞いてきたんだけど」
「いいところに来たね。あなたの力を借りたいのよ」
ベラはウッキウキでサーシャをとっ捕まえて、今思いついた作戦を説明した。
二つ目のラッキーはこの話サーシャがきたことだ。
「そうだなぁ。僕のお父さん(王様)とか、王妃の両親とかに聞かないといけないからな」
ベラとおんなじことを言っている。
やっぱり許可がないとダメみたいだ。
「俺今日聞いてくる」
「まじ!?ありがとう」
こうして復讐の計画は、サーシャが参加したことによって、本格的になってきた。
次の日。
王様、王妃の両親、その他諸々、色んな人に王妃の悪事と今回の復讐計画を話し合ってきたサーシャが、私の店に無事、帰還したのであった。
「どうだった?」
「僕のお父さん(王様)は即オッケーだったんだけど両親の方が...」
サーシャからダメそうな感じが溢れ出している。流石に実家を爆破させて欲しいってのは無理か。
「りょ、両親の方が?」
「聞いて驚くなよ?両親が今の家が古くなって使い勝手が悪くなったから、新しい物件を探している途中だったんだって。それでその物件のお金を全額負担してくれるんだったら、爆破させてもいいって」
「えぇっ!」
奇跡三つ目、王様、王妃の両親、その他諸々、色んな人たちが、実家爆破に乗り気であったこと。
「ほ、本当にいいの?」
「うん本当にいいって。だから昨日一緒に物件探してた」
「し、仕事が早い...」
でもどうやって爆破させたらいいんだろう?
ちょうど、サーシャがやってきて数分経ったタイミングで、客足が遠のいた。
「この感じ、僕の母(王妃)が来る!」
「裏行って!!」
サーシャが裏に行った途端、すごい勢いで扉が開いた。
「今日はあなたにお店の潰し方を教えてやるわ!」
上機嫌でやってきたのは、案の定王妃であった。
「お店の潰し方?」
「そうよ。昨日考えてたのよ。そしたらとんでもない名案が浮かんだの」
「名案?」
「そう。その名案ってのが、店大爆破よ」
「みせだいばくは?」
「そう。このお店をダイナマイトでドカーンよ」
奇跡四つ目。王妃の実家の破壊の仕方と同じ。
これで私の計画は一気にいい方向へ向かった。
「じゃあ。せいぜい、店が爆破するのを指を咥えて待ってなさい。ぎゃははは」
上機嫌なまま王妃は去っていった。
裏から出てきたサーシャは、悲しそうな顔をしていた。
「どうしたの?」
「僕の母って普段あんな感じなんや。最悪や」
「あぁ。なるほどね...」
私は思わず苦笑いをした。
この日、計画をベラ、サーシャは、ジョビ軍を最近退役したニコライさんに共有。ベラ、ニコライさんには民衆に広めてもらった。
しかし民衆に広めたらバレてしまうのではないか、と思ったそこの君。家が爆破するのは世界一の嫌われ者。みんな、この計画を秘密にしてくれるのだ。
計画は今日やった通り、私のお店が爆破すると思ったら、自分の実家が爆破するドッキリである。
そして今日、爆破日を迎えたわけだ。
「なんで私の実家なのよ!!お父さんお母さんは?」
「許可取ってます」
「サーシャちゃんと私の夫は?」
「許可取ってます」
「周りの人は?」
「許可取ってます」
爆発係が許可取ってますbotになってしまった。
「あんたムカつくわね!サーシャと王様を出しなさい!」
王妃の怒りは冷めるどころか、火に油が注がれたかのように燃え上がった。
「目の前にいるじゃないですか?」
「はぁ?いないわよ!」
「はぁ。悲しいなぁ。この僕が実の息子だと言うのに」
バンダナで隠れた顔があらわになった。
私はこれも知っていた。解体業者を装ったサーシャであることを。
「顔が隠れたぐらいで、息子がわからなくなるなんて。失望したよ」
「失望したのはこっちよ。なんで実の息子に実家を破壊されなきゃいけないのよ!」
「だって母がやってきたことをギュッとまとめたらこうなるよ?」
「はぁ?」
「自覚がないみたいだね。さらに絶望したわ。」
「こんなのおかしいわよ!ぎゃぉぉん!」
「はいはい静かに。あんた、王妃になった途端に威張りすぎなんだよ。田舎町に生まれたことがコンプレックスなのかは知らんけど、そう言うのマジで見てらんない。恥ずかしいとか余裕で超えてるレベルだから」
「あんた、なんでそんなこと知ってんのよ。私の出身地なんかあなたに一度も行ったことないはずよ」
「僕の素晴らしい協力者に教えていただきました。ちなみに言っとくけど、王妃の実家爆発ドッキリすること、ここにいる人みんな知ってたよ。ウキウキしてたのあんただけだよ。はずかちぃでちゅねぇ」
「ぎゃぉぉん!そんなのおかしいわ!ぎゃぉぉん!」
結局、民衆は解散しても、王妃はずぅっとその場にとどまって発狂したままであった。




