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武技繚乱  作者: 弐號
9/9

第九話

「そのバッチもらい受ける!」

 力強く踏み出し、隼人は真っ直ぐに相手の懐に飛び込む。

 自分よりも大きな相手に対し距離を取るのはリーチ面からみて愚策。

 そう判断したからだ。

「潔し!」

 相手は素早く構えを取り迎え打つ。

 隼人は真っ直ぐ相手に突進し――

 相手は左拳で迎撃を狙う――

 拳が隼人に触れるか否かの刹那。

「ん!?」

 隼人が相手の視界から消えた。

 無論、本当に消えたわけではない。

 相手の攻撃が当たるギリギリを見切り、膝を抜き、速度そのままに相手の側面に回り込んだ。

 一瞬動きが遅れれば頭部に攻撃が直撃していただろう本当にギリギリのタイミング。故に相手からは隼人が消えたように見えていた。

 そして。

「セイッ!」

 回り込む勢いそのままに、拳を脇腹目掛けて突き立てる。

 刹那を見切り、意識外からの急所打ち。

「軽いわ!」

 直撃したにも関わらず、ダメージが無いかのように。

 相手は隼人を払い退ける。

「マジかよ」

 バランスを崩すも、受け身を取り事なきを得るも。

 相手は容赦なく距離を詰めてくる。

「ふんっ!!」

 下から掬い打つ様な軌道の拳が隼人に襲い掛かる。

「重――」

 何とか腕を挟み込むが、威力を殺し切れずにガードが跳ね上がる。

 そして、無防備になった腹部への追撃――

「ふぅぅぅ――」

 息を吐き、身体を締め。それでいて脱力する。

 その状態で、相手の拳を受ける。

「ん!?」

 軸で回転し、衝撃を利用しての。

「っせい!」

 肘打ち。

 脇腹を抉る。鋭い肘。

 それも、自分の打撃分。威力が重増しされた。

「ご……ごっは……」

 如何に体格が良くとも。

 急所で受けるには無理があった。

「倒れろ!」

 前屈みになる相手に放ったトドメは。

 蹴り上げ。

 顎を全力で撃ち抜き。

 勝敗は決した。

「よし!」

 隼人は急ぎ、バッチを奪い取る。

 しかし。

「そい!」

 奪って直ぐ。

 迎え打つ準備もままならぬ間に。

 否。準備が出来ていない隙を狙って、バッチを狙う相手が襲いかかってきた。

「やっぱりそうなるよな!」

 隼人の想像通り、事は始まった。

 隼人に襲いかかってきた者だけでは無い。

 出遅れたが引けなくなった者。

 隼人の隙をつこうと集中したが故、その隙を突かれた者。

 辺りは隼人を中心に乱戦模様となり始めていた。

「ほら。俺にばっかり集中してていのか?」

 と。隼人は相手の背中に視線をやる。

「!?」

 一瞬。相手が視線を隼人から外した。

「貰い!」

 それで十分だった。

 距離を詰めると、流石に相手も気がつくがもう遅い。

 隼人を迎撃しようと拳を伸ばすも、威力は無い。

 余裕を持って弾き、そのまま組み付く。

 1対多であれば組み技は使えないが、1対1が多数なら、十分有効だ。

 そのまま絞技に移行し。

「かっ……か……」

 10秒ほどで相手の意識を刈り取った。

 無論、バッチも忘れない。

「さて、後は抜けるだけか」

「お待たせ!」

「そっちも終わったか」

 ちょうどそこに柚季が合流した。

 作戦通りに。

 互いに背後で戦うことで、後ろの警戒を緩める事ができ、戦いが終われば合流し、固まる。

 これだけで。乱戦の中、襲われる率も下がるだろうという判断だ。

 合流し、状況を確認する。

 互いの胸。柚季は赤2つに青1つ。

 隼人は赤1つに青2つ。

 合計各3つ。

 丁度3人クリアに足りる量だ。

「よし。じゃあ後は……」

「ここを突破するだけだね!」

 2人は足並みを揃え、駆け出す。

 戦っている人たちを避け、手を出されにくい距離を保ちつつ。

 だが。

「行かせるかよ!」

 小柄な少年が前に立ちふさがる。

 胸にバッチは――ない。

 乱戦の中か、はたまたそれ以前か。

 一度敗北した以上。戦いを挑むしかない者が。

「邪魔だっ!」

 隼人は素早く懐に飛び込み、足、腰、背中と威力を流す。

「ふんっ!」

「がっ……」

 一撃で相手の戦闘力を奪い去る。

「……悪いな」

 控えめに言って、遥かに格下。

 無防備に飛び出したところも。

 懐に潜り込まれるまで反応することすらできなかったこと。

 一撃で落とされる撃たれ脆さ。

 その全てがそう物語っていた。

 だからと言って、慈悲を掛けるつもりもない。

 互いに武術家なのだから。

 倒れた少年を横目に、2人は体育館手前までたどり着く。

「やった! 隼人! もうすぐだよ!」

 その時。

「止まれぃ!」

 再び2人の前に立ちふさがる者が。

 バッチの為に戦った数人。

 乱戦の中で見た数々の受験者たち。

 その誰よりも強い。

 一目でそう感じさせる。

 それほどの圧。肉体。立ち方。

 恐らくは、横を抜けることもかなわない。

 そう直感した。

 それほどまでの猛者だということを裏付けるかのように。その胸には数多のバッチが輝いている。

 もう誰とも戦う必要など無い。

 それなのにどうして。

「……なんで邪魔するんだよ」

「邪魔? 否! これは選別だ。この学園は神聖なる武の聖地! 弱き者が入学するなど許されんのだ!」

「何が『許されん』だ。お前も受験者だろ!」

「それがどうした。私が入学した暁には弱者は全て屠ってくれる。これはその第一歩だ!」

 そう叫び。男は武器を構える。

 絵本の中でしか見たことの無いような。巨大な鉄塊。

 例えるなら。

「うわー……鬼の棍棒みたい……」

 持ち上げることすら困難と思しきその棍棒を、男は軽々と構えて見せる。

「さぁ。尋常に」

 男から発される圧に、2人が構えを取る。

「……ねぇ。ここは私にやらせてくれないかな?」

 柚季が一歩前に出る。

「いや。ここは俺がやる」

 左手で柚季を遮り、隼人がさらに前に出る。

「え、でも――」

「いいから」

 その力の入った顔。

 気迫を見て、柚季が構えを解く。

「……分かった。隼人がそういうなら」

 そう言って柚季は少し後ろに下がる。

「ふん。2人同時でもよいが……」

「武術家が2対1なんて仕掛けるかよ!」

 明らかに自分より格上。

 それでも隼人は男の前に1人、挑み立った。

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