第七話
「よお、編入試験組。悪いが青バッチ貰っていくぜ」
バッチを預かって数分。
初めて対等な立場で赤バッチ持ちと遭遇した。
が、ファーストコンタクトは、相手からの右ストレート。
出会いがしらの攻撃を完全には躱せず、左顔面に拳を受けてからの開戦だった。
「ったく、赤バッチはどいつもこいつも出会うまでの気配が分かりにくいな……」
悪態をつきながらも、顔と体を咄嗟に捻り、ダメージは多少軽減している。
追撃に備え、間合いをとる。
「あらら、今のでとったと思ったんだがな」
結果を憂う相手は、その恰好、先ほどの早い右ストレート、そして構え。以上の事から、相手の流派は。
「ボクサーか」
「正解」
軽やかなフットワークでぐんぐん距離を詰めてくる。さらに。
「しっしっしっしっしっ!」
いわゆる武道。ではあまり見られない。速度重視の数で削る突き。
左ジャブ。
単純な拳速で言えばこれ以上速い攻撃は存在しないだろう。
そんなものをマシンガンのごとく連打してくる。
「くっそ!」
初めこそ叩き落としていたものの、次第に手が追い付かなくなり、最終的にはガードに追い込まれる。
「しっっ!!」
更にはジャブでガードを操られ、晒されるのはがら空きの腹部。
隼人がその事実に気が付いたのは、ボディーブローで打ち抜かれた後だった。
「ごふっ……ふぅ……」
人間を効率よく倒すにはどうすべきか。
その英知こそ、武術である。
けれども、いわゆる格闘技へと昇華した武は、その一部を削り取る。もしくは殺傷の少ない、新たな技を生み出す結果となっているものも多い。
ボディーブローもそのうちの一つ。
相手を一撃で屠る。ではなく、足を止める。ダメージを残す。倒す技ではなく、削り取る技。
だからこそ、隼人はまだ立てていた。
「さぁ。まだまだいくよー」
ボクサーに手ごたえはあった。
確実にボディーブローは刺さっている。
ボディーブローは足を奪う。
もう逃げられない。
「ちぃ!」
ジャブで距離を測り、ガードの隙間を穿つ右フック。
からの左アッパー。
どれもこれも、辛うじて直撃はしていない。
「このままじゃジリ貧だな……」
いつか、一つでも直撃したら終わり。
ボクサーのパンチにはそれだけの威力がある。
「大丈夫! もう終わるさ」
白い歯をキラリと輝かせ、ボクサーが決めに来た。
パンチに威力を持たせるため、強く左足が踏み込まれたところに。
「しっ!」
一閃。狙い澄ました右のローキック。
ボクサーの弱点は足。
実際のところ、それが本当かどうかは置いておいて。そんな話は武に携わっていれば多少なり耳に入る。
結果として、目の前のボクサーはうめき声をあげ、そのまま固まった。
その隙を見逃すわけもなく。
一気に距離を潰し。
全力の連撃を打ち込む。
一撃一撃がボクサーほどの威力ではなくとも、急所を抉る攻撃は十分に相手の体力を奪い取る。
ボクサーが完全に沈黙するまで、7発だった。
「……はぁはぁはぁ、やっと一つか……あと2つ!」
バッチを奪い。
すぐに次の相手を探しに一歩踏み出す。
休憩などしている時間は無いのだから。