表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武技繚乱  作者: 弐號
5/9

第五話

 時刻は午後1時50分。

 隼人と柚季は試験エリアの森を奔走していた。

「ねー隼人。この後、どーするの?」

「いいから今は誰かいないか探せ赤でも青でもいい、バッチを持っている人だ」

 見つけたとて、自分たちが戦うだけの価値を持たない以上、逃げられる可能性が高い。

 それはわかっている。

 だが、どう転ぶにせよ、バッチを持っている人間に会わないことにはどうしようもない。

 ろくな作戦も思いつかぬままに、2人は走っていた。

「でもさ、人の気配が多い割に出会わないよねー」

 それは隼人も感じていた。

 所々で人の気配は確かにしている。

 しかし、そっち方面に走って行くと、気配が霧散してしまう。

 隼人は。

「説明にもあったけど、ルール違反を見張る人間の気配だろ。多分な」

 そう判断した。

「そっかー。でもそれなら完全に気配遮断しておいて欲しいよねー。ルール見張るってことは多分先生たちなんでしょ? 出来るでしょ、それぐらい」

 などと愚痴を吐きながら進んでいると。

「――上だ!」

 隼人の合図で2人は左右に分かれて飛ぶ。

 躱した場所に、地面を揺らす衝撃と共に、降ってきたものがあった。

「ちっ、避けやがったか……」

 巨人。

 まず浮かんだのはその単語であった。

 それくらいにでかい、威圧感を放つ男がそこにはいた。

 そして、胸には輝く赤バッチが。

 よし! 相手から襲い掛かってきてくれた。

 隼人がそう喜ぶ間に。

「――しっ!」

 バッチを見るや否や、柚季は攻撃に走る。

 隼人に目をやっていた巨漢の隙をついて。

 到底人が人を叩いたとは思えない重厚な音が当たりに響き、柚季自身、手応えがしっかりとあった。

 力を逃された、技を躱された、などではない。最大威力の拳が確実に対象に当たった。そんな手応えが。

「軽いなぁ。女の拳は」

 一切のダメージを感じさせない口振りに、柚季はすぐ様距離を取る。

「まじかー。結構いい手応えだと思ったのになー」

「俺は耐久力には自身があるんだ。女の軽い攻撃など聞かんよ」

 巨漢は柚季の方に向き直り、構えを取る。

 構えはレスリングの様な低い前傾姿勢。

 もし、この巨漢に倒されてしまえば、柚季の力ではまず逃げ出せないであろう。

「柚季! やれるか!?」

「勿論! ちょちょいのちょいよ!」

「分かった! ならこいつは任せた!」

 それだけ言い、隼人は森の奥へ。

「ガッハッハ! 仲間は逃げたぞ? 可哀想になぁ、1人置いて行かれて」

 ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべる巨漢に対し、柚季は。

「……武術家だからね。多対一は無いんだよ!」

 先手必勝。

 相手が動き出す前に柚季が再び前に出る。

「遅い!」

 それを見た巨漢も前へ。

「せいっ!」

 柚季の回し蹴りが巨漢の横顔に突き刺さる。

 だが、巨漢はものともせず。

「どっせぃ!!」

「うわっ!」

 攻撃を受けた顔で蹴りを押し返す。

 勢いを完全に返され、柚季は大きく後ろに弾き返された。

「ふん! 速いだけで蹴りも軽い。これだから編入生は嫌いなんだ……こっちは中等部から技を磨いている。ぽっとでの貴様らに席を譲って堪るかよ」

「な、なにをー! こっちだってこーんな小さい時からじいちゃんに鍛えられてるんだからな!」

 柚季が再び前に踏み出した時。

「ん!? 貴様、バッチは!?」

 胸に光るはずの青バッチ。

 あるべきものがないことに、巨漢が気が付いた。

「ないよ! だからあんたから奪ってやる!」

 右足を強く踏みしめ、驚いた巨漢の隙をつく左拳。

「ぐぉぉっ……」

 どんなに鍛え上げた、耐久力が自慢の肉体であっても一瞬の間を、力を込めていない虚を突かれれば脆いもの。

 深々と突き刺さった左拳に悶える巨漢がそれを体現していた。

「よっし! どうだ!」

「くぅ……だが、この程度で俺を倒せると思うなよ!!」

 気合とともに、巨漢は立ち上がる。

 しかし。

「ぐっふ……はぁ、はぁ、」

 緩んだ身体に深く突き刺さった拳は、一撃で巨漢の体力をごっそりと減らしていた。

(くぅっ。この女、この細身のどこにそんな力が……バッチも持たぬこいつと戦うメリットはもうない……だが……)

 自分をしっかりと見据える眼光。

 先ほど見た素早い動き。

 恐らくは。

(逃げるのは不可能……)

 その判断に至った。

「手ごたえはあったのに……ほんっとにタフだねぇ」

 互いに構え、互いを見据える。

 巨漢の身体に一切のゆるみは無い。けれども、先ほどの一撃の影響により、振るえる力はそう多くはない。故に――

 柚季は相手のタフさに感服しながら、倒す手段を考える。渾身の一撃を耐えられた以上、連撃重視で威力を落とせば、まず弾かれる。掴まれたら終わりの体格差。故に――

――狙うは互いに一撃必殺。

 狙いを済ませ、互いの呼吸を読み――動いたのは同時。

 巨漢はタックルで捕まえようという算段。

 対し、柚季もただ前に。

 そして、互いがぶつかる瞬間。

「ぐ……はぁっ……」

 巨漢。散る。

 数倍はあろうかという体重差を意に介さず、最後まで立っていたのは柚季だった。

「き……きっもちー! あぁー。やっぱり戦うってサイッコー……じいちゃん。全然他流試合とか実戦とかさせてくれなかったからなー。よーっし。学校に入学していっぱい戦うぞー!」

 戦いの甘露を存分に味わい。更なるその味に期待を膨らませ。柚季は隼人の後を追う。

 もちろん、赤バッチをしっかりと胸に輝かせて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ