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武技繚乱  作者: 弐號
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第二話

第二話もよろしくお願いします

 組み手が終わり、数時間後。

 汗を綺麗さっぱりと流した2人は、居間のテーブルに並び座らされていた。

 わざわざ2人を座らせたのは、机を挟んで対面のクーゲンフィリアと。

「で、じいちゃん。わざわざ座らせてまでする話ってなんだよ」

 隼人と柚季、2人の祖父であり、武術の師でもある、天元宗一郎その人である。

「ん。これからのお前たちの進路についてじゃ」

「しん……」「ろ……?」

 進路。この単語に2人はつい顔を見合わせる。

 2人して幼い頃からずっと口にしてきた。先祖代々相伝してきた流派、天元流を受け継いでいくと。

 だからこそ、今年中学を卒業すれば義務教育が終わり武に専念できる。人生のすべてを武に使える。

 そう考えていた。何度も口にしていた。それはじじいも分かっていただろ、と。

「何をポカンとしとるんじゃ。卒業間際の中学生が進路を考える。当たり前の事じゃろ」

 馬鹿どもが。そういわんばかりにため息を吐き捨て、宗一郎は湯気立つお茶を一口すする。

「いやいやいや、ちょっと待ってよ。高校にはいかないよ? ずっと言ってたじゃん!」

「そーだよ! ぜーったい進学なんてしないからね! 勉強してる暇なんてないんだから!」

 強く机に手を叩きつける隼人と、立ち上がり講義する柚季。

 そんな2人を見ても、宗一郎の態度は変わらない。

「まったく……人の話は最後まで聞かんか馬鹿孫め……はぁ、肉親がバカだと疲れれるのぅ」

 やれやれ、と。また小さなため息を一つ。

 カチンッ。総一郎の言葉に、2人の顔は見るからに怒りが滲みだしている。

 売り言葉に買い言葉、さらに2人が言い返そうと口を開きかけたところ。

「はいはい。そこまで、いい加減にしなさい」

 咎めたのはクーゲンフィリアだった。

「話が進まないでしょ。2人は座って、手は膝の上! 師匠も2人をからかわないでください」

「はっはっはっ! すまんすまん。ついつい、な!」

 豪快に笑い飛ばす宗一郎とは裏腹に、2人は不貞腐れながらも椅子に座りなおす。

「さて、では話を戻そう。結論から言えばお前ら2人には学校へ通ってもらう」

 反論したい。顔にそう書いてあるが、クーゲンフィリアがそうはさせない。黙って聞きなさい、と。声に出さずに眼だけで。

「とはいっても普通の高校に行けとは言わん。通ってもらうのは『神技錬磨武術学園』じゃ」

「しんぎ……れんま?」

 柚季は首を傾げ。

「なにそれ」

 と。

 一方、隼人はその名に聞き覚えがあるようで。

「神技錬磨武術学園っていったら日本最高峰の武術を磨く為の学園だぞ? 武術家やっててなんでしらねぇんだよ……」

「えー! 隼人は知ってるのー!?」

「だから知らない方がおかしいんだって……で、じいちゃん。今までそんなこと言わなかったのに急にどしたの?」

「いやなに、お前らが天元流継ぐには経験値がなさすぎる。それに何より弱い。せめてこの学園を卒業できるくらいの実力がないと世界一はおろか、天元流を継がせるなど無理な話じゃわい」

――一瞬の沈黙。

 そして。

「……弱い? 俺たちが?」

 自負があった。

 物心つく前から武にのめり込み。

 中学でも部活など興味も示さず、一心不乱に、誇張なしに毎日稽古に励み。

 俺は、私は、強い。と言う自負が。

「弱い。お前らは井の中の蛙じゃわい」

 カタン。と、小さな音一つで隼人が立ち上がり。

「なら強いってことを証明できたら良いんだな?」

「そうじゃな。わしが納得する強さだと証明出来れば学園にも通わず天元流を継ぐことを認めよう」

「ちょっと待って! 師匠! 何言ってるんですか!? 話が違うじゃないですか!」

「落ち着けクーゲンフィリア。こいつらを黙らせるには結局これが手っ取り早い。口で言っても納得するような奴らじゃないからのぅ」

「で、どうすればじいちゃんを納得させれるの? 仕事でも手伝えばいいか?」

「簡単じゃわい。ここにおる現役学園生、クーゲンフィリアを倒せたら卒業程度の実力があると認めてやろう」

「ちょっと!? 聞いてないんですけど!?」

 宗一郎の発言に一番驚いたのは他でもない、勝手に条件にされたクーゲンフィリアだった。

 元々は。「2人を説得したいから現役生の意見とかよろしく」程度のお願いだったはずなのになぜこうなっているのか。

 クーゲンフィリアは少し、ほんの少しだけ、この場に足を運んだことを後悔した。

「え! クーちゃんと戦えるの!? やったー!」

「まじか、クー姐とか……」

 強い者と戦う喜び。強い者と戦う絶望。

 反応はそれぞれ全く異なる物だった。

「なんじゃ、隼人。嫌そうじゃなぁ」

「いやいや、そもそも無理ゲーじゃん! じいちゃんもクー姐の実力知ってるだろ!?」

 記憶にある限り、隼人と柚季が姉弟子であるクーゲンフィリアに勝った試しは一つもない。

 軽い組手を含め、全てで。

「じゃあお前は実戦でも『あいつの方が強いから戦いません』とか言って逃げるのか? 世界一(笑)を目指すだけはあるのぅ。流石じゃ! 確かに負けなければ世界最強(笑)じゃ!」

 高笑いし、煽りに煽る宗一郎。

 その横ではクーゲンフィリアがため息をつき、隼人は怒り、柚季は喜んでいる。

 4人それぞれ違う顔をしていた。

「クソじじい……言わせておけば……」

「ここまで言われて怒る。その気持ちも分かる。でもね、隼人。師匠が言うことが正しいよ」

 隼人自身、分かっていた。分かってはいたが、思考と感情は別物だ。

 それらを自分自身で擦り合わせるにはまだ若すぎただけ。

 クーゲンフィリアの言葉に、ようやく感情を抑え始めることができた。

「……あぁ、分かってるよ。本当は。武術家を名乗る以上、年齢も、経験も、性別も、関係ないって。だからこそ! 俺は一刻も早く強くなりたい。学園なんかに通わず。ただ稽古していたいんだ」

「そう焦るな、隼人。お前の言いたいことはもちろん分かる。じゃが、強くなるにあたっては稽古なんぞ基礎中の基礎。稽古だけしていても強くは成れん」

「は? 何言ってるんだよ。稽古は強くなるためにするんじゃないのかよ!」

「違う。稽古は強くなるための準備にすぎん! 何故か。本当に分からんか?」

 その問いに隼人は口を紡ぐ。

 強くなりたい。その一心で稽古に励んできたのだから。

 今更稽古では強くなれない。そう言われて納得など出来るわけがなかった。

「んんー? どゆこと?」

 柚季は柚季で答えを出せずに横で唸り、首をひねっている。

「まぁ答え合わせは後にして、始めようか」

 そう言って宗一郎は立ち上がる。

「始めるって……何をだよ」

「なんじゃ、もう忘れたんか。学園に通うかどうかを賭けた、クーゲンフィリアとの試合じゃよ」

 宗一郎は誰にも悟られぬようにニヤリと笑う。

 こらえていたものを吐き出すように。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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