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選択肢A2 君の傍にいられるなら、本当にどちらでも良かったんだ

 


 それから三年が経ち――。



 その日のアーガスティン領は賑わっていた。今日は領主の一人息子のところへ、王家の第一王女が降嫁してくる日なのだ。


「……緊張する」


 豊かな金色の髪の麗しい花嫁は、その紺碧の瞳に涙を滲ませていた。


「うう……。緊張する!」


「まだそんなことを言っているの? シャル」


 シャルルティーユの控える部屋へと入って来たローズを見て、シャルルティーユは目を見開いた。


「ローズ……。綺麗……格好いい!」



 シャルルティーユは、目の前に立つローズに見蕩れていた。


 今日のローズはシャルルティーユの白いドレスに合わせて、白いタキシードを着ている。胸のポケットに差しているハンカチは、初めてシャルルティーユが贈った刺繍入りのものだった。


 さらにローズは肩付近で切った髪を後ろで結っているのだが、その髪を結ぶリボンはかつてローズの誕生日にシャルルティーユが贈った、薄い水色のリボンだった。


 女性だった時のローズにも似合っていたが、今のローズにも似合っている。


「良かったよ。可愛い、なんて言われなくて」


 綺麗とは言われちゃったけどね。そう言ってシャルルティーユの賛辞に、ローズははにかむように笑った。


(訂正……! ローズは綺麗で格好良くて、可愛い!)


 細身で美貌のローズは今でも女性の恰好が似合うほどに、美しく可憐だった。


(ふふ……男性だった時の私の方が、ちょっとだけ背が高かったかな)


 シャルルティーユは女性に戻った今でも、なかなかに背が高い。母親のベリータよりも、拳二つ分程は大きかった。


「男性にだって、綺麗という言葉は使うよ。男性の時の私も言われていたしね」


 しかし、たとえローズが熊のような体格になったとしても、今のシャルルティーユは愛せる自信があった。


(それに熊だって結構可愛いし!)


「ローズ。私は可愛いものが好きだけれど、例え君がこれからどんな姿になったとしても愛しているよ。そう――熊のように大きくなってもね」


 シャルルティーユからの愛の言葉を受け、照れるローズ。そんなローズのやはり可愛らしい姿を見たシャルルティーユは、一人ご満悦だった。





 白き魔女の魔法で互いに無事元の姿へと戻った二人だったが、しばらくは大変だった。


 黒き魔女によってかけられた呪いのせいで十歳の時から逆の性別として生きて来たシャルルティーユとローズだったが、呪いをシャルルティーユが肩代わりしたことによって、元の性別へと戻ることが出来た。


 しかし、周囲の認識までは元に戻ることはなかった。


 白き魔女が言うには、それは呪いを解いたのではなく、代替したことが原因だそうだ。家族や極少数の者以外の周囲の認識は、ローズの身分は第二王子ではなく第一王女であり、そしてそれはシャルルティーユにしても同じだった。


 しかしローズの身体はすでに女性から男性へと戻っている。シャルルティーユもしかりだ。元の身体に戻れたのは嬉しいが、第一王女や侯爵家の一人息子がいきなりいなくなるのは少々どころではなくまずい。


 そこでシャルルティーユとローズを含めた王家とアーガスティン家の者で互いに話し合った結果、すべてを丸く収める一つの方法が導き出された。


 すなわち、互いの立場を交換してしまえば良いのだと。


 二人が結婚をすることはすでに決定事項であり、二人に子どもが出来た場合、シャルルティーユが生む子どもは確実にアーガスティン侯爵家の血を引いている。


 容貌その他、多少の違いはあれど、シャルルティーユもローズも元に戻ったときのことを考えて、あまり社交界に顔を見せてこなかったことが功を奏した。


 ローズの白金色の髪とシャルルティーユの淡い金色の髪は、遠目で見れば色合いが似ている。


 それに、多少疑問に思うことがあったとしても、王家と、王家と縁者になった侯爵家の者に表立ってその疑問を口に出すような人間は、そもそもいないだろうと考えての提案だった。


 しかし外見に関しては、意外にも白き魔女の協力が得られることになった。


 もともとは姉の仕出かしたことが原因だからと、シャルルティーユとローズの髪や目の色、外見に関して人々が疑問に思った時にだけ、軽い幻惑が発動する魔法をかけてくれたのだ。


 強い魔法ではないし、疑問に思った人間だけへの使用なので特に難しいことではないらしい。いわば咄嗟の目くらましのようなもの、だそうだ。


 それに案外人間の記憶というのはいい加減で、つじつまの合わないことに関しては脳が勝手に補正してくれるらしい。


 時間が経つにつれ、二人の入れ替わりに関して疑問に思う人間はいなくなるだろうとも言っていた。


 というわけで、現在シャルルティーユは第一王女として、ローズはアーガスティン家の一人息子として立場が入れ替わっている。


 ちなみに互いの呼び名に関しては、互いの名を交換して呼ぶことで愛を確かめ合っているという多少強引な理由をつけたのだが、意外にも周囲には受け入れられてしまった。


 むしろ領内では仲の良い領主の息子夫妻にあやかるためという理由で流行しているくらいだ。


「私のことよりも……君の姿をもっとよく見せて」


 そういって、ローズがシャルルティーユの付けていたレースのベールを後ろへ優しく払えば、先ほどよりもはっきりとローズの麗しい姿が目に入り、シャルルティーユの頬が赤く染まった。


 目を細め、笑みを浮かべ、本当に愛おしそうにローズがシャルルティーユを見つめていたからだ。


 ちなみにシャルルティーユがつけているベールも、シャルルティーユ自身が編んだものだ。


「……綺麗だね、シャル。本当に夢みたいだ。……一度は諦めた夢だった」


 シャルルティーユが初恋だったと言ったローズ。


 ずっと、シャルルティーユの姿が変わってからも想い続けてくれたということは、魔法が解けた後に聞かされたことだ。


 どんどん男性らしくなっていくシャルルティーユを見ても、ローズの気持ちはまったく変わらなかったらしい。


 自分のその気持ちに対してはローズも一時期相当悩んだそうだが、結局はシャルルティーユはいつか女性に戻るのだからと、気持ちがそれ以上大きくならないよう押し殺していたらしい。


 自分と違い、シャルルティーユはいつか女性に戻る可能性が高い。シャルルティーユが女性に戻ってしまえば、女性の姿のローズでは、もう想いを叶えることは出来ないのだからと。


 そしてもし、シャルルティーユが男性のままで生きることになったとしても、元男性で、秘密を抱えている己では、シャルルティーユに相応しくない。


 何より、もしシャルルティーユが呪いをかけられた原因が自分にあるとすれば、とてもではないが想いを打ち明けることなど出来はしないと。


 そう思っていたらしいのだ。


(結局、私たちは同じような悩みを抱いていたってことか……)


「ねえ、ローズ。私は女性の姿だった時のローズも今の男性の姿のローズも、同じくらい大好きだよ」


 しかしそう言ってからシャルルティーユが、今更蒸し返さなくても良かったかな、これではむしろ拘っているように聞こえないだろうかと心配していると――。


「うん……私もだ」


 そう、ローズが幸せそうに微笑んでくれたので良しとした。


 









 ――空は青く、花々が咲き誇る良き日。



 アーガスティン家の跡取り息子の元に、王家の第一王女が降嫁した。


 美しく精悍な花婿と、麗しく可憐な花嫁。


 白き魔女に祝福された二人のこの婚姻は、アーガスティンの領民たちにも喜びを持って迎えられた。



 やがて数年がたち、数十年がたち。


 どれだけ互いの姿が変わっても。


 二人はいつまでも、いつまでも。仲睦まじく幸せに暮らしましたとさ。




 Fin.


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