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君と生きていきたいから戻りたくない 



「シャルの言う通りだよ」


 ローズがシャルルティーユを見つめ、ほんの少しだけ、悲しそうに微笑んだ。


「君の両親が王都にやってきただろう? 君の両親は君にかけられた呪いを解いて欲しいと、王家で雇っている魔女と魔術師への取次を申請した。結果は知っての通りだけど、一応白き魔女という存在が関わっているからと、魔術師の一人が父に報告を上げたんだ」


 両親はシャルルティーユが呪いをかけられたと知るや、すぐに王家の魔術師たちへと救いを求めた。そのことはシャルルティーユも知っている。


 結局それでシャルルティーユが元に戻ることはなかったけれど、ローズの助けになったのなら、その行為自体はまるで無駄ではなかったということだ。


「魔術師からの報告を受けた父はそりゃもう驚いたんだよ。時を同じくして呪いをかけられた二人の子ども。そしてその子どもは、私が婚約者にと望んだ女の子だ。これが関係ないわけがないからね。城にいる魔女や魔術師たちは、私にかけられた呪いを認識することが出来なかった。呪いを解くことなど、端から期待していない。だがもしかしたら、白き魔女ならば私の呪いも解けるのじゃないかと期待したんだ」


 白き魔女は、黒き魔女と対をなす存在だ。


 城にいる魔女や魔術師たちでも無理ならば、あとは白き魔女に縋るしかないだろう。


「けれど……白き魔女は会おうと思って会える存在ではない。きっとここで待っていれば、いつか白き魔女に会えると、両親と私は考えたんだ。それに、良き魔女であるはずの白き魔女が、何の理由もなく誰かに呪いをかけるということは考えにくい。――何か、そう、きっと私の呪いに関係があるのではないかと考えたんだ。だから一切の理由をアーガスティン侯爵夫妻に話して、この領地に客人として招いて貰ったんだよ」


(ああ……だから父様と母様は……)


 シャルルティーユの気持ちを尊重すると、言ってくれたのだ。きっと両親もローズとシャルルティーユの間に、運命的な絆があると確信したから――。


 結局はローズの言う通り、シャルルティーユが呪いをかけられたのには理由があった。その理由を知った今となっては、呪いをかけられたことも、正に運命だったのだとシャルルティーユは納得した。


(でも……白き魔女は王家に対する救済って言っていたのに、なんでそれを王家が知らないんだろう)


「ねえ、ローズ。王家の者にはずっと黒き魔女の呪いがかかっていたんでしょ? 白き魔女はこれまでの呪いを受けた王家の者を救済して来たと言っていたのに、どうして王家は白き魔女のことは知らなかったの?」


 もしそれを知っていたとしたら、すぐにシャルルティーユが呪いにかけられた理由に思い至ったはずだ。


 シャルルティーユの疑問に、ローズは無言で白き魔女を見つめた。


「わからない。でも、私が白き魔女と会ったのは今日がはじめてだということは確かだね」


 白き魔女を見つめ続けるローズに倣い、シャルルティーユも白き魔女に視線を向ける。二人の視線を受けた白き魔女が、小さく息を吐いた。


「儂が箒星の魔女の償いをしておることは、呪いが発現した当事者とその相手、二人の周囲しか知らんことだからね。知らなくて当たり前さね。あんたたちも儂のことは言うんじゃないよ。まあ、すべてが済んだあとには口封じの魔法をかけさせてもらうから、言おうとしても言えないだろうけどねえ」


「口封じ……」


 物騒な言葉に、シャルルティーユは顔色は蒼くした。


「そう怖がるでないよ。ほかの黒き魔女に知られたら厄介なんだよ。白き魔女にもね。儂のやっていることは身内の尻ぬぐいのためとはいえ、救済の仕方も、本来なら白き魔女のやりかたじゃあない。考えてもごらん。いくら王家の者を救うためとはいえ、何の関係もない人間に呪いをかけるんだよ? 真っ当な白き魔女のすることじゃないだろう。運命へ導くなんて伝説は、体のいい言い訳さ。そのせいであんたはいらぬ苦労を背負うことになった」


「でも……それは私が承諾したから……!」


 確かにこの八年、シャルルティーユは様々なことに悩んできた。


 けれどそれ以上に、ローズと過ごした時間を、奇跡だと、愛おしいと思っている。


「……いや、白き魔女の言う通りだ。ごめんよ、シャル。結局、君が呪いにかけられたのは、私のせいだった」


 ローズが長い睫毛を伏せると、美しい翠の瞳に影が差した。


「違う! 違うよ、ローズ! 君のせいじゃない! 私は自分で承諾したと、さっき白き魔女はそう言ったじゃないか!」


「いや、私のせいだ。白き魔女は王家の者に対する救済と言っただろう? 私がさっさと元の身体に戻ることを諦めていれば、きっと君が呪いにかけられることもなかった」


「そんなことはない! 私が呪いに掛けられたのは、必然だったんだ。運命だったんだよ!」


 ――白き魔女の呪いは運命へと導く。


 白き魔女本人は否定した。


 けれど、シャルルティーユはその言葉は間違っていないと思っている。


 結局、シャルルティーユはまるで運命に導かれるようにローズを好きになった。シャルルティーユの運命はローズへと繋がっていたのだ。それはシャルルティーユにとって喜び以外の何ものでもない。


 子どもの頃に出会い、ずっと傍にいてくれた可愛い、愛しい女の子。


 たった一人の特別な存在だ。


「ローズ。私は君に会えて嬉しい。私の存在が少しでも君の心を救えたのなら、呪いを受けて本当に良かったとすら思っているよ」


 シャルルティーユの言葉に、ローズの美しい顔がくしゃりとゆがんだ。そんなローズを見たシャルルティーユは、ローズはどんな表情をしていても美しいのだな、などと想い、ローズに見蕩れていた。


 ローズの美しい瞳から、一粒の涙がこぼれ落ちる。


「そうだね、シャル……。私も嬉しい。……君に会えて嬉しかった。私も君が男性でも女性でも、どちらでも構わないんだ。だから、シャルの思うようにして欲しい。そのままの君も、女性に戻った君も、私は心から愛せるから」


 ローズの真っすぐな視線を受けて、シャルルティーユの胸に歓喜が広がった。


 シャルルティーユも、ローズが女性だろうと男性だろうと、どちらでも良かった。きっとローズは女性だろうと男性だろうと、優しく、可愛く、綺麗で、格好いいのだ。


「さあ、想いは確かめあったね。どうする、アーガスティンの一粒種。あんたはどちらを選ぶ。男性の姿で、女性の姿のアンブローズを愛するか。女性の姿で、女性の姿のアンブローズを愛するか」


 白き魔女に促され、シャルルティーユは目を瞑り、唇を噛んだ。


 元は男性だというローズ。ならば、本心ではローズはシャルルティーユが本来の女性の姿に戻ることを望んでいるのかもしれない。


 だが、シャルルティーユが女性の姿に戻れば、ローズとずっと一緒に生きて行くのは難しくなってしまう。


 どちらを選んでも、きっとわずかな後悔は残るだろう。ならば今は心の導くままに行動するべきだと感じた。


「……ローズ。私は元女性だけれど……君と違い、その頃の私は別段自分の性を意識してはいなかった。だから、これまでも絶対に元に戻りたいと思ったことはない。けれど、絶対に元に戻らないと言い切ることもできなかった。それに、正直これから先を一生男性として生きて行くことに不安はある。君の言う通り、私は剣よりも針が好きだし、恰好良いもの、強いものよりも、可愛いもの、綺麗なものが好きだ。……でも何よりも私は……君が好きだ、ローズ。だから……だから私は、君と共に生きられる道を選びたい」


 シャルルティーユの一番の願いは、これから先を一生、ローズと共にあること。


 白き魔女に会えたことで、これから先シャルルティーユが突然女性の身体に戻ることはないと確信できた。


 ならば少しでも可能性のある方を選べばいいだけだ。


「ローズ。どうか男性の姿の私と、結婚して欲しい」


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


明日はラスト4話を一気に投稿します。あらすじに書いた通り結末が二つあり、選択肢AとBとの2話ずつに分かれております。


以前別の作品の感想返信で自分にとってIFは禁断と書きましたが……これは同じ相手だから……例外として……自分に許可した次第です。

女性に戻ったシャルルティーユと、戻らなかったシャルルティーユの未来(ローズの未来でもありますが)。お好きな方をお読みください。何でもござれの雑食で心の広い方は両方御覧ください。

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