グロリアに会いに
「クリフトン、カルメラ、私ちょっと旅に出るわ。後はよろしくね」
帝都から帰った四日目の朝クララはそう言ってタピア公爵家を出ていった。
「クララ様は先日泣きながら城から帰ってきてその足でここに戻ったばかりですのに、もうお出かけですか?」
カルメラとクリフトンは驚いた。クララはナバス城に行く度に泣いて帰ってくる。何があったのかと心配していた二人だったが、今回のクララの表情は明るく、何か良いことでもあったような幸せに満ちた笑顔を二人に向けた。その笑顔を見て二人は安堵のため息を吐き、旅立つクララを見送ることにした。
旅に出るクララの警護をする為の騎士を早急に選抜しようとしたクリフトン。彼に向かってクララは一人でゆくと言い、止める間も無く公爵家の馬車に乗り行ってしまった。
*
クララはグロリア、カルロス、ダフネに会いにゆこうと決めていた。夢で見た精霊の王を救うため、空、海、土、時空の精霊を探すヒントが見つかりそうな気がしたからだ。
(まず一番遠いグロリアを訪ねよう。連絡無しで行ったら驚くかな?でも突然行っちゃおう)
クララは馬車の中で外の景色を眺めながらあの日のエリアスを思い出していた。
エリアスの心臓の上に刻まれたクララ・タピアという名前。
クララの瞳に涙が滲む。エリアスがどれほど深くクララを愛していたのか、その愛を思うとクララの息が止まる。クララを見つめる優しい瞳、絶望の涙。クララは苦しくなる胸を抑えた。
(私を忘れた後、ルカス様の時と違ってエリアス様がどこか私を気にして下さっている気がしたのはそのせいだった。万が一忘れても何故ここに私の名前があるのかと、考え、気にするように。それだけで充分、それほどの愛を与えてくださったエリアス様。私を忘れたあの日、あの瞬間は辛かったけれど、今は違う。充分に幸せを感じている。だから早くエリアス様の苦しみを消し去って幸せで明るい未来を見つめて生きて欲しい。私は私の命と引き換えにしてもエリアス様をこのループから解放する)
精霊王を自由に、どうか精霊を探すことが出来ますように。
海岸沿いを馬車でひたすら走り三日目の夕方、クララはグロリアが治めるアドモ領地に入った。タピアの紋章が入った馬車で向かったお陰ですんなりと領地に入ることが出来、そのままグロリアの住むアドモ公爵家に向かった。
グロリアが治める街は水路が整備されて噴水もあり石畳と水の美しい街だった。アドモ公爵家も噴水や池,小川が流れており水の精霊を大切にしているとわかる。邸宅は石造りで重厚感があり、歴史を感じさせる。馬車が邸宅の玄関に着くとグロリアがとびきりの笑顔で待っていてくれた。クララは馬車を飛び出しグロリアに抱きつく。グロリアも笑顔を浮かべクララを抱きしめた。
「グロリア、ごめんね突然お邪魔しちゃって」
クララはグロリアの手を握りながら言った。グロリアは笑いながら、
「クララはいつもこんな感じじゃない?驚かないし嬉しいわ!!こんな遠くまで来てくれてありがとう!」
グロリアはそう言いながらクララを邸宅内に案内してくれた。
グロリアは二階にある客間にクララを案内してくれた。この邸宅は街の中心部にある。馬車で走っている時は気が付かなかったが街の建物は全て平家作りになっておりこの部屋から海が見えた。建物が視界を邪魔することがない。海が夕日を反射しキラキラと輝いきとても美しい風景だ。
「グロリア、ここからの景色は本当に素晴らしいわ。」
クララは横で一緒に海を見つめるグロリアに言った。
「クララとこの景色を見ることが出来るなんて、嬉しいわ」
グロリアは夕日を見つめながら言った。二人は夕日が海に溶けるように沈んでゆく様子を静かに眺めた。
「クララ、お腹すいたでしょ?食事にしましょう、お父様とお母様、あと兄と妹を紹介するわ」
グロリアはクララの手を握り部屋を出た。
「ところでクララ、メイドも騎士も連れずに一人で来るなんて驚いたわ」
グロリアはクララを引っ張るように歩いている。クララがグロリアを訪ねて来てくれたことが嬉しくて仕方がないとわかる。クララも嬉しい。
「だって私自分でなんでも出来るし、騎士よりも強いんですもの」
クララは笑いながら言った。
「クララって公爵令嬢だった頃あの父親に虐められてたじゃない?だから自立心が強かったのね。私だったら一人で馬車にも乗れないわ」
グロリアも笑いながら言った。
「私も本当はそう言ってみたいわ。でももう遅いわね!うふふ」
クララはそう言いながらも今の自分は一番自分らしいと思った。