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クララの涙


 驚いた様子でクララを見つめるエリアスに会釈をし、クララは逃げるように庭園の奥に逃げていった。

 (ずっとずっと我慢していた感情が爆発しそう。死にたいほど苦しくて、胸を搔きむしりたいほど切ない。このやるせない、行き場のないこの気持ちをどうしたらいいの?)

クララはポロポロと涙を流しながら庭園の中を走った。

 (あの時も、ルカス様がフランシスカを忘れた時も、同じようなことがあったわ。私は何度この繰り返しをすれば良いの?)

 クララを溢れる涙を止めることができなくなった。

 (この涙は私のエリアス様への思い、溢れても行き場のないこの思いをどうしたらいいの?)

 ドレスで走ったせいか、足元がふらつきクララはその場にしゃがみ込んだ。ハンカチを取り出し握りしめ瞳に当てる。クララは声を殺し、静かな庭園に聞こえる寂しげな虫の音を聞きながら、ひたすら孤独に耐えていた。

 

 カサッ、

 誰かが歩いてくる。クララは気配を消すように息を潜めた。

 (こんな姿を見せられない)

その足音は近くまで来たが、途中で聞こえなくなった。人の気配はしない。しかしまだ遠くに行っていないかも知れないと、そのまま数分微動だにせず息を潜めていた。静かな庭園に虫の音だけが聞こえる。クララは誰もいないと判断し、顔を上げた時目の前にセルゲイが立っていた。

「キャー!!」

 クララは自分を見下げるセルゲイを見て驚きとともに気味悪さを感じ鳥肌がたった。そして凄しい怒りが湧き上がる。

 (セルゲイ!絶対に許したくない!)

 クララはセルゲイの言ったあの言葉を思い出した。

 

 『身の程知らず』


 クララは燃え上がるような怒りと憎しみが湧き上がり、このままここにいたら自分の感情を制御できないと立ち上がり無表情にクララを見つめるセルゲイを無視しすぐに立ち去ろうとした。

 

 (セルゲイが憎い、このままセルゲイを殺してしまいたい!私を忘れるようにエリアス様にダーインスレイフを渡したセルゲイを許せない。そして何よりエリアス様の決意を台無しにしたセルゲイを絶対に許せない)

 クララはセルゲイを睨みその横を通り過ぎた。

 「クララ様、お待ちください」

 すれ違いざまにセルゲイは穏やかな口調でクララを呼び止めた。クララはその声を聞き鳥肌がたった。あの日『身の程知らず』と言ったセルゲイの声とその口調。あの日のことをセルゲイは覚えていない、だが、セルゲイのその口調はクララに対する憎悪の色が見える。

 

 (ああ、このままセルゲイをを殺してしまうかもしれない、この人さえいなければ、何度も何百回も思った。今も思っている)

 クララは鳥肌が立った体を抱きしめるようにし、そのままセルゲイを無視し歩き出した。しかしセルゲイは去ろうとするクララの腕を掴んだ。

 腕を掴む手は力強くその強さの中に憎しみの炎を見た。しかしクララもセルゲイに対し同じ、いや、それ以上の感情がある。クララは我慢できず溢れ出る涙をそのままに、セルゲイを振り返りに言った。

 「満足ですか?あなたは私がこうなることを望んでいたのでしょう?」

 全てを忘れたセルゲイはクララの言った言葉の意味はわからない。だが、落ちぶれたタピア家、エリアスを騙したタピア公爵家の娘であり当主クララを嫌っているのは事実だ。


「何を仰っているのかわかりません、が、恐らく私はそんなあなたを見て満足だと感じています」

 そう言ってクララに笑いかけた。


「私に触らないで!!」


 クララが叫んだ時、セルゲイの背後に人影が見えた。

 

「何をしている?」

 

 エリアスが現れた。月明かりを受け輝く髪を靡かせ、厳しい表情を浮かべセルゲイを見つめるエリアス。

 

 (エリアス様?!なぜここに?!)

 クララはエリアスを見て驚き頭の中が真っ白になった。なぜ突然エリアスが現れたのか全くわからない。足が小刻みに震える。エリアスはいつもここぞと言う時にクララを助けてくれた。今も。

だが、全てを忘れたエリアスがクララを気にするなどありえない。だが現実はエリアスはクララの前に現れ、怒りの表情を浮かべセルゲイを見ている。

 クララは呆然とし二人を見ていたが、ふと今自分が涙を流していることに気が付きすぐに下を向いた。

 (涙で濡れた顔を見られたくない)

 クララは急いでハンカチで涙を拭い昂った気持ちを落ち着かせるよう瞼を閉じた。

 

 「セルゲイ、何をしている?私はクララを保護するように言ったはずだが何故腕を掴んでいる?」

 エリアスは語気を強めセルゲイに聞いた。セルゲイはエリアスが怒っていると察知し、取り繕うように奇妙な笑顔を見せながら握りしめていたクララの腕を離した。その瞬間クララはセルゲイを押し退けその場から走り去った。エリアスは逃げたクララを追ってこなかった。

 しかしクララはエリアスの言葉と行動に戸惑いを感じていた。

 (エリアス様は気にしてくれたの?なぜ?ルカス様の時は全く関心すら持たれなかったのに)

 心臓が高鳴り望めない期待を抱いてしまう。しかしその期待は必ず裏切られる。エリアスがクララを思い出すことは絶対にないのだとフランシスカの時に何度も思い知らされた。

 

(……もう帰ろう)

 クララは城のエントランスに戻り待機していたタピア家の馬車に乗り込みそのまま公爵家に帰った。


 カルメラは泣きながら帰ってきたクララに驚き言った。

 「クララ様、昔のクララ様みたいですね。我慢しなくても良いのです」

 そう言ってクララを優しく抱きしめた。クララはカルメラの腕の中で声を上げて泣いた。寂しくて悲しくて憎らしくてどうして良いのかわからない複雑な感情。けれどカルメラの温かい抱擁にクララの心は少しだけ癒された。

 クララは明日早々に領地に戻ると伝え、一人部屋に戻りベットの上でもう一度泣き、泣きつかれ眠った。

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