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クララの知らないエアリス

 カルロスはクララをグロリアとダフネのところに連れて行った。

「クララ!あなたすごい騒ぎになっていたわよ。」

 ダフネが笑いながらクララに言った。それぞれのパートナーは気を遣ってか、その場にはおらず、クララはダフネの隣に腰をかけ苦笑いした。

「クララ、カルロスがいて良かったわね、中々あの男性の中に入って行ける人居ないわよ」

 グロリアはクララにワインを手渡しながらカルロスを労う。カルロスはグロリアに褒められ頭をかきながら言った。

「そうだなぁ、全員が束でかかって来ても負けることはないけど、それでも結構迫力あったぞ!」

 カルロスはそう言ってテーブルにあるワイングラスを手に持ってクララに向かって乾杯をするよう持ち上げ飲み干した。

「カルロスのお陰で助かったわ。ありがとう。まあ、色々あってあんなことになってしまった……」

 クララはため息を吐きながらワインを一口飲んだ。

 (……流石にエアリス様を見たくなかったからあの集団にわざと囲まれた、なんて言えないわ)


「ところでクララ、今日は首元がシンプルね。ネックレスはしていないの?」

 ダフネはクララの細い首元を見つめ聞いた。

「あ!!」

 クララはすっかり忘れていた。リボンを落としていた。拾いに行ってそのまま拾わず忘れてしまったのだ。

「あ、ごめん、思い出した!!ちょっと行ってきます」

 クララは突然立ち上がり、足早に会場から出て行ってしまった。三人はそんなクララ呆れた顔で見つめ、

「相変わらずね、心配が尽きないわ」

 グロリアが言うとダフネもカルロスも

「同感!」

 と言って笑った。


 クララは先程の薔薇園に戻りリボンを探していた。暗くて見えない。

 (魔法を使って探そうかな)

 クララはファイヤーボールを空中に浮かべその灯りでリボンを探した。ゆっくりと一株づつ薔薇の中をさがしていると、黄色のバラの上にクララのリボンが引っかかっていた。

 (ああよかった)

 指を鳴らしファイヤーボールを消した。青白い月明かりが薔薇を照らしている。幻想的な雰囲気に思わず声が漏れる。

「綺麗」

 クララは月明かりを受け青白く見える黄色の薔薇に触れた。


「エリアス様、ここからの景色は本当に美しいですわね」

 二階のテラスから声が聞こえそっと上を見上げるとエリアスと、イエンチェ帝国の姫、エルザの姿が見えた。

 (一番見たくない人を見てしまった)

 急激に胸が苦しくなる。愛を語ってくれたエリアスの姿が思い出されあまりの悲しさに涙が溢れそうになった。唇をギュッと結び奥歯を噛む。見たくない、目を逸らしたい、けれど体は動かず、その瞳はエリアスを見つめ止まっている。視界が滲みそうになり目に力を入れる。息が止まるほど胸を圧迫されるような苦しさに思わず胸に手を当てギュッとドレスを掴んだ。

 本来ならエリアスと一緒にいたのはクララだ。こんなところから隠れるようにエリアスを見て泣くことなどしなくて良かった。エリアスは溢れる愛をまっすぐにクララに届けてくれたはずだ。

 しかし現実は変わってしまった。どうしようもないこの現実にクララは耐えられそうにない。

 (エリアス様!私はこんなふうにあなたを見たくなかった!)

 クララは唇を噛んだ。

 テラスにいるエリアスは黙って庭園を見ている。その瞳はクララの知っているエリアスの瞳ではない。この国皇帝として歩み始めている感情のないエリアスの瞳。

 (そんな瞳を見たくなかった。エリアス様、この忌まわしいループを断ち切ると言ったエリアス様の瞳が恋しい!)

 その時ずっと握っていた魔法石がわずかに光った。その光は優しく温かくクララの乾いた心に潤いを与える。クララは昂った感情を抑え、冷静さを取り戻した。

 (そうよ、我慢することはないわ。すぐにここから立ち去ろう。タピア領に戻ろう)

 クララはエリアスから目を逸らそうとした時、庭園を見ていたエリアスと目があった。

 そのまま、時が止まったように感じた。

 エリアスは白のマントを纏い腰まである長い髪が月の光を受けしっとりとした輝きを放っている。その輝くような美しい姿を見たクララはエリアスが遠い人になったと実感した。優しく愛を語ってくれたエリアスはもう居ない。今、エリアスの相手は自分ではないのだと改めて突きつけられたように感じた。

 (私の知っているエリアス様はもう……居ない。)

 せっかく我慢していた涙がクララの頬を伝わった。一筋の光が顎先から地面に落ちる。ハッと我にかえり手で涙を拭った

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