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薔薇と炎の物語  麗しの皇帝様、、私、訳あって男のフリしてますが可愛いリボンが大好きです。  作者: ねここ
第三章

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パーティーへ

 クララは今晩行われるパーティーに参加する為、邸宅に戻りドレスに着替えた。

久しぶりの華やかな装いにクララ本人よりもカルメラが燃えていた。

「誰よりも美しく仕上げます!」

 カルメラのその言葉の裏には、今まで一人で苦労しタピア侯爵領地を豊かにしてきたクララへの思いがあった。男装していた時からずっとクララを支えてきたカルメラは思いを込めてクララの支度をした。


 今日のドレスはココアを薄めたような淡い茶色のオーガンジーに、薄いピンクのオーガンジーを幾重にも重ねた可愛らしいドレスだ。胸下からフレアーになっており背中は大きなリボンが結ばれている。上はビスチェタイプで肩が出ているが、両脇下からオーガンジーの袖がついているのでセクシーと言うよりは妖精のような愛らしさがある。クララのボブスタイルの髪がより一層クララをキュートに見せてくれる。首には背中と同じリボンを巻きつけ、そのリボンには真珠とダイヤが付いている。

 あまりに可愛らしい姿のクララにカルメラは満足していた。

 オシャレが好きだったクララがこの二年、全くオシャレをしなくなりカルメラは心配していたのだ。だが、今日はこの二年分の気合いを入れた。

 「ありがとうカルメラ。とても気に入りました」

 クララは鏡に映る自分の姿を見て微笑んだ。

 

 だが、心の中は沈んでいる。エリアスのお相手とされる女性がエリアスにエスコートされ参加するのだ。

 クララは唇を結んだ。


 エリアスはずっとクララを大切に思ってくれていた。リアナの頃から常に助けてくれていた。それがあの日を境に全くクララを気にすることなく公務を全うしている。仕方のないことだと何度も自分に言い聞かせるが、それでもあの日のエリアスの選択を恨みたくなることもある。何故あのまま死なせてくれなかったのかと夢で何度もエリアスに怒りをぶつけた。目覚めると涙で枕が濡れていた。それでも、仕方がないことだと涙を呑み、全てを受け入れ領地を発展させることに意識を集中し今日まで来た。しかし、二年ぶりに再会したエリアスの顔を見ただけで、あの日の自分に戻ってしまった。

 

 そして、あの日エリアスにダーインンスレイフを持たせたセルゲイ。

 顔を見るだけで殺意が湧いた。自分の中でこんなにも禍々しい感情があったのかと驚くほどセルゲイを憎んでいる。クララを陥れ、何よりエリアスを欺いた。しかしその罪はクララへの愛と共にエリアスの記憶から忘れ去られてしまった。


 クララは両手を握りしめた。


 (あの男だけは許したくない。もし城で会ってしまったら冷静でいられなくなる)


 クララは出来るだけエアリスとセルゲイに会わないように、顔を見ないようにやり過ごそうと決めた。

 

 クララはタピア公爵家の騎士、バートにエスコートを頼み城に向かった。


 城のエントランスに到着したクララはバートに言った。

 「ここまでで結構です。ありがとう」

 バートはクララを馬車から降ろし、頭を上げ下がった。

 クララはそのまま会場に向かおうとしたがまだ時間があることに気がつき、エントランスを出て庭園に出て行った。

(懐かしい)

 あの頃の思い出が胸に去来する。切なく懐かしい日々。クララは胸が苦しくなった。走馬灯のように駆け巡る懐かしい日々に耐えきれなくなりそうになり日が傾いた空を見上げた。一番星が見える。まだ明るい空に強く輝くその星はエリアスに見えた。

 クララの視界が滲む。

 (こんな所で泣いてはいけないわ)

 クララは両手を握り瞼を閉じて涙を堪えた。その時、スルリ、とクララのリボンが取れ、突然巻き起こった突風に飛ばされた。

 「あ、また同じことが、」

 クララはリボンを追いかけ薔薇園の中に入って行った。左右を見渡しながらリボンを探していると一本の枯れかけた薔薇を見つけた。その薔薇は薄い紫色の薔薇で花弁の先が剣のように尖っている珍しい形の薔薇だった。

 (私がいた頃こんな薔薇あったかしら?それに、バラが枯れるなどなかったわ。どうしてこの薔薇はこのまま放置されているの?)

 クララはグローブを外しその薔薇に触ろうと手を伸ばした。

 バチッ、薔薇に触れる瞬間、指先に火花が起き鋭い痛みを感じた。

 (何?今のは?)

 クララは痛みを感じた指先を見たが怪我はしていない。しかし、何か違和感を感じ、瞳を閉じ集中した。

 (きっと何かがある)

 ゆっくりと瞳を開け目の前の薔薇を見ると枯れかけた薔薇全体に蜘蛛の糸のような細く光る糸が巻き付けられている。

 (……なにこれ?!)

 そのまま注視していると紫色に光る精霊の魔法石がその光の糸にグルグルに巻きつけられている。その魔法石の光は消えかけていた。クララには神がこの魔法石の光を消そうとしているように感じた。

 (このままだと光が消えてしまう!)

 クララはもう一度その糸に触れた。バチバチッ!先ほどよりも強い火花が起き強い力でクララの指は弾かれた。

 嫌な予感がした。やはり神の意志を感じる。このままこれを無視できない。何かがおかしい。クララはその糸に向かって炎の魔法を唱えた。

 「ジャーマ!」

 すると激しい炎が光の糸を包み一瞬でその糸は焼け落ちた。そして息を吹き返したように魔法石が輝き始めた。

 「ふぅ、とりあえず、大丈夫かな?」

 クララは枯れかけた薔薇の根元を触り魔力を注ぎ、自身の指をそのバラの棘に刺した。ポタポタと生暖かい血が流れる。クララはその血を薔薇の根元に落とした。

 「私の血、こう見えて神様を寄せ付けないのよ。エリアス様を惑わした人間だからおそらく神様から嫌われているの」

 そう言って紫色の魔法石をその薔薇の根元に置いた。

 「きっともう大丈夫。早く良くなってね」

 クララはその薔薇と魔法石に別れを告げ城内に戻ろうとした時、その魔法石がクララの手の中に移動してきた。

 「?何?どうしたの?私と一緒に行きたいの?」

 クララが聞くと魔法石がキラキラと輝いた。クララはその輝きを見つめた。

 (どこか暖かく、懐かしいわ。まるでセリオ様のような魔法石)

 「わかりました。では共に」

 クララは魔法石を握りしめその場を離れた。

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