笑顔の裏側
「チャールズ侯爵、今タピア公爵が言ったことは本当か?」
エリアスはテーブルの上で両手組みチャールズに話しかけた。
「、、、はい、タピア公爵様が仰った事は、、本当でした。」
その言葉を聞いたカルロスとダフネは目を合わせ喜んだ。グロリアは小声で、
「クララやるわね」
と言ってその手を握った。クララは笑顔を絶やさず優しく語りかけるようにケイシーに言った。
「領地民の意志と言ってもやっぱり領地を守ることって大変ですよね。もしよかったら私に良い考えがあるのですが」
ケイシーはクララが何を言い出すのかと怪訝な表情を浮かべクララを見た。
「あの、ケイシー様の領地はワイン作りがお上手ですよね?私の領地民を派遣しますので手伝わせてもらえませんか?それにケイシー様の領地民の皆さんは生真面目で素晴らしい技術を持った方が多く他の業種もお手伝いさせていただけたら嬉しいです。もちろんお金は全てこちらで持ちますし,必要な税金もお支払いします。垣根を越えてお互いが豊かになる事を願っておりますが、いかがでしょうか?」
クララは穏やかな笑みを浮かべ提案した。
「タピア公爵様、そのような提案を下さり本当に、、」
ケイシーはクララが自分のことしか考えていない人間だと思い込み、強引に話をしたことを恥じた。終始笑顔で優しく対応され、自分が心狭い人間だったと恥ずかしくなったのだ。
「ケイシー侯爵様、本来はこちらがお話しすべき事でした。本当に申し訳ありません」
クララはもう一度謝りケイシーに微笑んだ。ケイシーはその柔らかいクララの微笑みに負けた。
「こちらこそ何も知らず大変失礼いたしました。一緒に豊かになるために協力できること、幸せに思います」
ケイシーは胸に手を当てクララに会釈をした。
クララはホッとした。こんなことで争いたくない。命をかけて争う場所はここではない。
「タピア公爵、流石だな」
エリアスはクララを見て微笑みを浮かべ言った。クララはエリアスの微笑みを見て胸の痛みを感じたが、笑顔で答えた。ただ、両手は力一杯握られている。
「まだまだ若輩者ですからご指導いただければ幸いでございます」
それからも会議は続いたがクララは終始笑顔を絶やさず過ごした。その間、何度も胸の奥底で痛みを、喉を締め付けられるような渇望を抑え、朝から始まった会議は途中の休憩を挟み三時ごろに終わった。
(ようやく苦しい時間が終わった)
クララは部屋を退出するエリアスの後ろ姿を見つめ唇を結んだ。
「疲れた……」クララはテーブルにうつ伏せ呟いた。グロリアはそんなクララの頭を優しく撫でながら先程のことを聞いた。
「クララ先程話していたあの法律、まさか全部覚えてたの?」
「ええ、セリオ様に覚えろと言われて、って、セリオ様あれから……会えた?」
クララは前々から気になっていたセリオのことを何気なく聞いた。グロリアは首を降り寂しげな表情を浮かべ言った。
「セリオ様の手から離れた私達はもう会う事はできないんだと聞いたわ。エリアス様と同等に一緒にいた人物だから間違いが起きるといけないからって」
「間違いって?」
クララは嫌な予感が的中したような気持ちになった。
(あの日、エリアス様がダーインスレイフを使ってから皆全てを忘れてしまった。セリオ様は神殿の外でエリアス様の指示に従いこちらの世界を守っていた。だけど、何かが起きたのだわ)
グロリアは顔にかかる髪を手で後ろに払いながら暗い顔をして黙っているクララに言った。
「間違いとは、皇族じゃないセリオ様に忠誠を誓いたくなるってこと。まあ、わからなくもないよね。ずっと教えてくれた人だから」
クララは奥歯を強く噛み怒りを抑えた。
(誰がそんなことを言ったの?セリオ様は誰よりもエリアス様を大切にしていた方、私たちがそんなことにならないようにあれほど徹底して教えてくださっていたのに。何かあるはず。セリオ様が姿を見せない理由が……)
「そっか」
クララはそれだけ答え立ち上がった。グロリア達は全てを忘れてしまった。今は本当の気持ちを言うわけにいかない。
(仕方がないことだけどあまりにも寂しく悲しい)
クララは行き場のない思いを胸に秘めため息を吐いた。
「クララ!!今日パーティ行くだろ?!」
カルロスとダフネが声をかけてきた。
「パーティ。……仕方がないと覚悟を決め行く事にしたのよ」
クララは眉間に皺をよせ答えた。行きたくない、面倒だと察することができるほどの表情だ。
「クララ!バラの綻びが台無しよ!」
ダフネがその表情を見て笑い始めた。
「だって嫌なものは嫌だわ」
クララはダフネの指摘に不貞腐れ言った。
「まあそう言わない、そういえばエリアス様エルザ・ヤンセン様と婚約するって噂よ!今日も一緒でしょ?」
グロリアが言った。
(エリアス様が婚約……)
クララの心に動揺が広がる。だがそれを見せることもその話を聞かないことも出来ない。平静を装いグロリアに聞いた。
「エルザ様って誰?」
エルザという名前が頭にこびりつく。言いようのない重苦しい気持ちが胸に広がり、燃え上がるような嫉妬心が体を焼き付ける。想像するだけで嫉妬の炎で全てを焼き尽くしたくなる。クララは自分の中にある醜い感情に戸惑いながらもグロリアの答えをまった。
「イエンチェ帝国の姫よ。一つ年下の可愛い姫。甘え上手でモテるのよ。私も見習いたいわ」
グロリアが少しエルザを茶化すような口調を使い言った。
(一つ年下の甘え上手な姫様。私とは正反対だわ)
クララはグロリアから視線を外し背伸びをしながらエルザの話題から逸れるようにグロリアに聞いた。
「今日グロリアは恋人と?」
クララの言葉を聞いたグロリアは、待ってました!と言わんばかりのまんべんの笑みを浮かべ言った。
「クララ以外全員恋人と一緒よ。クララもいい加減恋をしなさいよ!」
その言葉を聞いてダフネもクララに絡んできた。
「そうよ、クララ。そろそろ自分の幸せも掴まなきゃ」
その言葉を聞きクララは悲しみを堪え笑いながら答えた。
「今は仕事が恋人だわ!」
「おいクララ、要するに仕事の方が男よりも良いってことだろ?」
カルロスはニヤリと笑いクララの頭をポンポンと叩きながら言った。
「そう言われちゃうと、反抗したくなるけど、実際はそれなの」
クララは気まずそうな笑みを浮かべ三人はクララの答えに"相変わらずだ"と笑った。
「じゃあまた会場で会おう!」
四人は解散し、クララは一旦公爵邸に戻った。




