ミラネス王家の秘密
クララは顔を上げ、しっかりとセリオの目を見て言った。
「セリオ様、可能であればタピア公爵家には言わないでいただきたいと思います。皆と同じように炎の精霊から祝福を受けたレオンで居たいと思います」
セリオはその言葉を聞き、徐に席を立った。そして窓際の本棚の前に立ち少し屈んで一冊の本を手にし戻ってきた。
「レオン、これを読みなさい」
そう言ってセリオが差し出した本はとても古い本だった。タイトルは無い。中を見ると「イフリートを召喚する者」という言葉が書いてある。
「セリオ様、これは、、」
クララは顔を上げセリオに聞いた。セリオは椅子に腰をかけテーブルに肘をつき目の前で両手を組みながらクララを見つめている。
「何か書いてあるか?」
クララは本を両手に持ち、内容を確認しながらセリオに言った。
「はい、ここにイフリートを召喚する者、その乙女、初代エリアス皇帝と神の誓約、精霊王、、、、薔薇の精霊、、、時来る、、、と書いてあります。」
クララは言った。セリオは驚いた顔をし、クララが言った言葉を復唱した。
「その本は私が見ると真白で何も書いていない本に見える。けれど選ばれし者が見ると文字が浮かび上がると言われている。」
セリオはレオンを見つめた。やはりこの子は、、いや、まだ、わからない。小さく首を振りレオンを見た。クララはこの本に書いてある文字は自分にしか見えないなど信じられなかった。そしてその意味も全く検討がつかない。
「え?、、、私にしか見えないだなんて、、本当ですか?、、それに、この意味は何を指すのでしょう?」
クララは驚き、指で文字をなぞった。選ばれしものってなに?ここに書かれている意味は?
クララは首を傾け他のページに手がかりがないかめくろうしたがセリオの視線を感じ本を閉じた。
「レオン、焦る必要はない。その意味はいずれわかる日が来るだろう。」
セリオはそういうと急に表情を変え、低く強い口調で言った。
「ところで、レオン。公爵家の人間は、通常精霊を召喚する事ができない。皆精霊からの祝福を受けるが、召喚が出来ないのが普通だ。けれどレオンは既に召喚が出来、イフリートがレオンを主人だと認めている。この現象は二千年前一度起きたのだが、詳細はわからない。」
セリオはそう言って一度視線を外した。そして少し間を置きクララの方に身を乗り出し言った。
「レオン、お前だけに言う。ミラネス王家、リアナ様は四大公爵家の精霊を全て召喚できる唯一の方、ただしイフリートはレオンが主人となりイフリートだけ召喚出来ない。この意味がわかるか?」
セリオは鋭い眼光をクララに向けた。その強烈な視線を浴び一気に体が硬直した。
「い、いえ、わかりません」
クララは緊張し少し声が震えた。ミラネス王家が、リアナ様が精霊を召喚できる唯一の方ならば、なぜ私はイフリートを召喚できるのだろう、、、そもそも今日その事実に気がついたと言っても良い。イフリートは、リアナ様こそ本来の主人のはずが、なぜ私が主人になったのだろう?クララはセリオの言う意味がわからない。
混乱する様子を見つめていたセリオはゆっくりと低い声で言った。
「、、イフリートの主人であるレオンが、タピア家が、その気になったらミラネス王家を攻撃出来るという事だ。」
セリオは眉間に皺を寄せクララを睨みつけた。
え?王家を攻撃する?!クララは事の重大さに気が付き全身の血の気が引いた。