城に行く
クララはあれ以来城に行くことを理由をつけて拒んでいたが、とうとうエリアスから呼び出された。皇帝直々の呼び出しを拒否するわけにいかない。クララは観念し城に行くことにした。
タピア公爵になり初めて貴族会議に出席するクララをカルメラは心配している。
タピア領地の長らしく美しくも威厳あるクララでいて欲しい。しかしカルメラは少し長くなると自分で切ってしまうクララの髪を見て嘆いた。
「ああ、クララ様の美しい髪がまたこんなに短くバラバラに」
クララは嘆くカルメラを横目に肩上でふわふわと動くこの癖毛が気に入っていた。
「カルメラ、私はとても気に入っているのよ」
クララは揺れ動く自分の髪を見て楽しそうな笑顔を浮かべカルメラに微笑んだ。カルメラはクララの可愛らしい笑顔に負けた。
「クララ様は可愛らしいお方ですから短くてもお似合いです」
クララはその言葉に頷いた。
そう、
私は髪を伸ばさない。
長い髪にキスをしてくれる人はもう居ないから。
「ハァ」
クララは短い髪の毛先を指先で触りながらため息を吐いた。
「クララ様、ため息は大きく吐いてくださいませ、幸せを皆んなに与える、、ですよね?」
いつかカルロスが言った言葉をカルメラがため息を吐いた時に言った。そのことを思い出しクララは苦笑いをした。そうだ、忘れてはいけないわ。私の言動や行動を皆見ている。
「さて、可愛いタピア公爵様、ドレスは何をご用意しますか?」
カルメラは楽しそうにクララに聞いた。
「公爵家の正装だからシンプルなシルクのドレスにマントよ」
クララは言った。
「わかっております、そうじゃなくてその晩の建国祭のパーティです」
カルメラは笑いながらクララに言った。
「?!なにそれ?そんな行事があるの?私帰りたいわ。」
クララは驚いた様子でカルメラに言った。
「クララ様それはなりません」
執事のクリストンがクララに言った。
「、、そうですよね、この二年上手く断っていたけど帝国に行ったその夜のパーティに参加しないなんてありえないですよね」
クララは観念し、急遽ドレスを作ることにした。
「ところでクララ様、領民がクララ様を『燃える薔薇』と敬意を表し言いますが、他の名もあるのをご存知ですか?」
カルメラはクララの短い髪が顔に落ちてこないようにシンプルなカチューシャをつけながら言った。「わからないわ」
クララは燃える薔薇と呼ばれていることは知っている。だがその他の呼び名があることは知らなかった。
「綻ぶ薔薇」
カルメラは言った。
「なにそれ?どう言う意味?」
クララは鏡越しにカルメラを見つめ聞いた。
「そのままです。クララ様はいつも微笑んでいる。皆その微笑みに癒され安心するのです。」
クララはカルメラの言葉に安堵した。
心に決めていた。
絶対に悲しい顔や暗い顔は領地民に見せない。
明るく微笑む姿で居ようと。
「そう思ってくれるならとても嬉しいわ」
クララは笑顔でカルメラに答えた。
城に行くことが決まったその日からクララは毎日精霊殿で祈りを捧げた。
城に行っても平穏に過ごせますように。
『平穏に』とは自分の心の事だ。
あれからずっと考えないように避けてきたエリアスとの対面。
自分が制御できなくなることだけは避けたい。
精霊様。どうかお力を貸してください。
私は泣く訳にはいかないのです。
強い心を持ち続けられるようにお支えください。
数日後、クララは二年ぶりにナバス帝国に向かった。
帝都内にはタピア公爵邸があり、執事のクリストンが屋敷の手入れを指示してくれたおかげでクララは問題なく邸宅に入ることができた。
「クリストン、大変だったでしょう?ずっと放置されてた場所ですから。ありがとう」
クララはクリストンに感謝を伝え部屋に入った。
二日後、城に行く。
クララは邸宅から見えるナバス城を見つめていた。
相変わらず美しく輝く城。
けれどその輝きは無機質で冷たい。
いつ必ず本当の光を取り戻しエリアス様を救いたい。
私があなたを覚えている限り私は絶対に諦めない。




