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薔薇と炎の物語  麗しの皇帝様、、私、訳あって男のフリしてますが可愛いリボンが大好きです。  作者: ねここ
第三章

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忘れられた世界の始まり


 黒龍との戦いが終わりその半年後、クララは荒れ果てたタピア領地に一人佇んでいた。


 タピア家当主となったクララはたった一人のタピア家の人間。支えてくれる家族はいない。

 クララは昔住んでいた公爵家の跡地を見つめた。


 このタピア家を立て直さなければ。


 クララは長い髪を切り、持っていたドレスも魔法で燃やした。


 大好きだった可愛いリボンも、ピンクの薔薇がついた帽子も全て燃やした。以前は父親の命令で泣く泣く燃やしたが、今は自分の意思で全てを灰にした。


 一人で生きてゆく。

 クララは自分のやるべき事、進むべき道を見つめ歩き出した。


 肩上に切られた短い髪を耳にかけたった一人、広大な土地を手入れし始める。


 爽やかな風がクララの短い髪を揺らし、毛先が頬を撫でる。大丈夫、一人でも出来る。

クララは手を止め背伸びをし、大空を仰いだ。 


 クララには明確な目標があった。せめてこのタピア領地だけでも自由な領地にしたい。魔法が使えない民たちが怯えることなく安心して暮らせる領地、自由で開かれた領地を作る。努力した人間が報われる領地に、貴賤関係なく心穏やかに暮らせるタピアを目指す。


 あの日、図書室で皆と誓ったこと、皆は全て忘れてしまったから。だから私だけでもその誓いを守ってみせる。



 クララは公爵家を街の中ではなく街が見渡せる丘の上に作る事を決めた。


 ナバス帝国からは廃墟と化したタピア領地に有り余るほどの支援金を提示された。絶対的なる忠誠を誓ったタピア家当主に対し古の誓い、地位財産名誉をミラネス王家が守ると言う約束を皇室が随行したまでだ。


 クララは提示された金額を見て胸が痛くなった。そんなことでしか信頼が築けない関係などない方がいい。あの時は皆そんな考えを持っていた。けれど今は違う。

 クララは考えを変えた。いただけるものは小石でも頂こう。


 今はこの領地を立て直し自由な領地にすることが生きる目的になったのだから。


 カルロス,ダフネ、グロリアは領地から大工などの人材を派遣してくれた。

 クララは変わらぬその友情に感謝をした。


 フランシスカの時と違い、彼らはお互いに芽生えた大切な友情は覚えていてくれた。

 けれど、その他は……。


 クララは小さな公爵家を建設した。そして生垣には薔薇を選んだ。


 大きな門の代わりに薔薇のアーチを作り、北にあるタピア領地でも薔薇が一年中咲ける様にタピア領地全体にイフリートの炎の力を使った。そしてもう一つ、精霊殿を作った。


 タピア領地は神殿ではなく精霊を敬う。精霊こそがその対象だと明確にした。

 だが、このナバス帝国に神殿を作らなかった領地は今まで一つもない。以前のタピアは神殿があった。けれどクララは神殿を壊し精霊殿を作った。だが皇室をはじめ帝国の貴族たちはクララの決断に異論を唱えた。しかしクララは固くなに神を拒否し、領地の中のことは当主の意思が優先されるというナバス帝国の法律を持ち出した。

 クララは異論を唱える貴族達を前にし毅然と言い、その主張は認められた。


 あの時必死になって覚えた勉強が役に立ったのだ。


 そして領地の境界線にも薔薇を植えタピアは薔薇が咲き乱れ炎の恩恵により温暖で自由な領地となった。

 人々はこれこそ正真正銘の炎と薔薇の公爵家と口を揃え言うようになった。


 領地に薔薇を植えるとき、クララはロサブランカを召喚した。ロサブランカのおかげで一瞬にし領地の境界線には見事なフランシスカの薔薇が咲き、その芳香が領地を包みまるで聖霊に祝福されているように空から金色の雨が降り注ぎタピア領地は輝きを放った。

 その美しい光景を見つめながらクララはロサブランカにお礼を言った。

「ロサブランカ、ありがとう。あなたのお陰です」

 クララの言葉を聞いたロサブランカは悲しげな表情を浮かべ、クララを抱きしめた。

 ロサブランカはまた運命が繰り返されたと知っていた。

 悲しげに微笑むクララに一本の薔薇を手渡しロサブランカは消えた。


 その薔薇は白に薄いグリーンが入った、レオンだった頃リアナに渡した思い出の薔薇だった。

 絶対なる忠誠、あなたの色に染まりたい。


 クララはその薔薇を見つめ瞼を閉じた。


 廃墟となっていたタピア領が息を吹き返し、大工など人々がタピア領地に出入りを始めると次第に領民が帰ってきた。

 クララは戻ってきた領地民を暖かく迎え入れ領地を混乱させた過去を領地民に謝罪した。

 「先代の時は申し訳ありませんでした。これから私が作るタピアをお話しします。このタピア領地は自由な領地でありたい。領地を維持するために必要な税金は納めてもらうが、貴賤関係なく努力した人が報われる領地にしたい。一緒に作ってもらえませんか?」

 領地民達は新しいタピア当主の言葉を聞き、その美しく甦った領地を見て目を輝かせクララと共に自由なタピアを目指し共に歩み始めた。


 たった一人で始めた領地での活動だったがクララの明確な目標と領民を大切にするその心に触れた人々は当主であるクララを慕い、数ヶ月後には爆発的に人が集まり出した。

 一人で住んでいた公爵邸にもクララを慕った人々が住み始めた。当主クララの生活を支えるメイドや使用人、執事、そして騎士達は誰もがクララを尊敬し当主として愛した。

 ある日一人の女性がクララを訪ねてきた。カルメラだ。カルメラはクララが城から去ってから程なくし、ミラネス王家のメイドを辞めた。カルメラもカルロス達と同じく、クララとともに歩んできた日々だけは覚えていた。そのためクララを追いかけてきてくれたのだ。


「今からが本当の始まり」


 クララは一人丘の上に佇み、活気を取り戻した街を見つめた。

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