これもまた運命その1
エリアスは音のない世界に慣れていた。毎月たった一人でこの世界で戦っていたエリアス。慣れていると言うことは、この世界のあらゆるところでエリアスが戦ってきた証でもある。
クララはそんなエリアスの姿を見て胸が押しつぶされそうになった。一体どれほどの苦しみを抱えていたのかしら?両手を握りエリアスの後ろ姿を見つめた。
エリアスの孤高の美しさは苦しみの深さに比例するのだと知った。
そんな人が私に愛を捧げてくれる。私もそれに応えたい!戦いが終わったらこの気持ちをまっすぐに伝えたい。エリアス様、待っていてください。
クララはこれから起きることに対する不安を振り払うように深呼吸し、エリアスの後を追った。
エリアスはどんどん森の中を進み、以前クララがロサブランカに導かれ歩いた草原を真っ直ぐに進んだ。そして見覚えのある場所でエリアスは止まった。
「クララ、ここがどこかわかる?」
エリアスは乾き始めた長い髪を左右に降り笑いながらクララに言った。
「はい、私が壊した水竜の泉、、です」
クララはバツが悪そうにエリアスから目を逸らし言った。
あの日エリアス様はこの泉を大嫌いな場所だと言った。けれど、迷わずこの場所に辿り着けるほど何度も来ていたと今わかった。やっぱり大事な場所だったんだ。そんな場所を私が壊してしまった。
クララは両手を握り唇を噛んだ。
エリアス様の優しさに甘えてしまったのだわ。ごめんなさい。
クララの心は申し訳なさで膨れ上がった。
もし『気にするな』と言われたら罪悪感で心がはじけてしまいそう。エリアス様、どうか何も言わないでください。クララは心の中で祈った。
「アハハ!クララは繊細に見えてやる事はダイナミックですからね!ね、エリアス様!」
突然カルロスがエリアスに話しかけ笑い出した。ダフネも野原に突然現れた大きな砂地を見て「クララは本当に怒らせると怖いわね!ここの水竜も気の毒に」と言って笑い、グロリアも笑い出した。
みんな、笑い飛ばしてくれるの?クララは三人の笑い声に肩の力が抜けた。
エリアスは楽しそうに笑う三人を優しく見つめ言った。
「クララは私の想像を超える人、今ここに皆と来れたのもクララのお陰だ」
クララはその言葉に救われた気がした。エリアス様はいつも私を救ってくれる。
「エリアス様、ありがとうございます。そう言っていただけて…肩の荷が降りました。みんなもありがとう」
クララは頭を下げ恥ずかしそうに笑った。
「クララ」
エリアスはクララの目の前に立った。クララは少し驚きながらもエリアスを見つめる。恥ずかしそうな表情を浮かべるクララの手を握りエリアスに言った。
「クララ、黒龍との戦いは私一人で行う。そもそも黒龍は私以外襲わないのだ」
クララは黒龍と聞いてまた不安がよぎる。エリアスはクララの不安に気がつき握った手に力を入れた。
「たとえば、私が戦っている時に皆が黒龍に攻撃してもその攻撃は効かない。だからただ見守ってくれるだけで良い。必ず黒龍を倒す」
エリアスは心配そうに見つめるクララに微笑みかけた。
それでもクララの不安は尽きない。エリアスもそのクララの気持ちを察しクララの髪に優しく触れ言った。
「クララ、約束したから大丈夫だ。私を信じて」
クララはエアリスの優しい眼差しに涙が溢れそうになった。けれど今はなく時ではない。エリアスを信じ見守るんだと心の中で自分自身に言い聞かせ、エリアスに頷いた。
二人の姿を見ていたカルロスは突然叫んだ。
「エリアス様がとクララの姿を見てると俺もフィアンセに会いたくなりました!!」
カルロスは徐にフィアンセの名前を連呼し始めた。
だが、カルロスの叫びを聞いたグロリアが真顔になりカルロスに聞いた。
「カルロス、あんた本当おもしろいわ。ところで、気になったんだけど今叫んでいる子の名前って前言ってた運命の彼女の名前じゃないよね?相手変わったの?」
その言葉を聞いたカルロスは泣きそうな表情を浮かべ言った。
「運命は片方だけでは運命と言わない!エリアス様の言葉だ!!」
その言葉を聞いたダフネが笑いを殺しながらカルロスに言った。
「プッ、要するに、、フラれたか」
カルロスのおかげで全員がリラックスできた。黒龍との戦いの前に笑えたことは精神的にも大きな効果がある。
エリアスはクララの手を握ったまま笑みを浮かべカルロスに言った。
「カルロス、まさかカルロスがその言葉を使う日が来るとは想像していなかったが、意外と運命の相手は近くにいるかもしれない」
そう言ってグロリアを見た。
「やだ!エリアス様、私はカルロスなんて無理です!」
グロリアは慌てて否定したが、意外にお似合いかもしれない。クララはそう思いながらお互いに無理だと言って喧嘩を始めた二人を見つめ笑顔になった。
エリアスはクララの笑顔を見てその手を強く握りしめた。クララはしっかりと手を握るエリアスを見て視線を下げ同じようにエリアスの手を握り返した。その手に込めた思いを受け取るようにエリアスももう一度その手を強く握った。二人の気持ちは同じだ。
三人は二人の姿を見つめ、この幸せが続きますようにと願わずにいられなかった。
ゴゴゴッ!
突然地鳴りがし始めた。エリアスは地鳴りの音を聞いて不安な表情を浮かべるクララを抱き寄せた。
「クララ、黒龍が来た。私は今から戦いに行く、約束忘れないで」
エリアスはそう言ってクララの額にキスをしクララから離れようとした。
クララはその言葉を聞き、震えるほどの不安に襲われた。このままエリアスと離れたらこの抱擁を二度としてもらえないかもしれない。行かせたく無い!クララは咄嗟にエリアスの手を掴んだ。
この手を離したくない、エリアス様は私を忘れてしまうかもしれない、永遠に思い出してもらえない。怖いどうしよう!クララは泣き出しそうになった。エリアスは悲しげな表情を浮かべクララを見つめる。
ああ、エリアス様も同じ気持ちなんだ!悲しくて不安なのは私だけじゃない。
クララは奥歯を噛み溢れる不安を抑えた。笑顔にならなきゃ!クララは涙を堪え笑顔を作った。ぎこちない笑顔かもしれないけれどこれが今私ができる最善。クララは震える心を抑えエリアスにいった。
「エリアス様!ずっと待っています」
その言葉は深い意味がある。何があってもエリアスを忘れない。その覚悟を決めた言葉だった。
クララの精一杯の言葉を聞きエリアスはその思いを受け取った。
「クララ、ありがとう。愛しています」
エリアスはクララを抱きしめもう一度クララの顔を見つめ目を細めた。
クララは心の底からエリアスの愛を感じ切なさに胸が苦しくなった。エリアスはそんなクララを見つめ少しかが込みクララの唇にキスをした。クララはとうとう泣き出してしまった。
そんなクララを見つめエリアスは二度とクララを悲しませないと覚悟を決めた。
この戦いを早く終わらせ、クララの元に戻りたい。
エリアスはその思いを胸にクララから離れ歩き出した。クララはエリアスの後ろ姿を見て我慢していた涙が溢れた。
一人草原の中央に立つエリアス、その重積と覚悟をこの場にいる全員が感じ、皆泣きたくなった。力を持つものの苦しみに触れた時、本物の忠誠心が宿る。
こんな契約をしなくても自分たちはエリアスを裏切ることは無い。
どうか全てが上手くいきますように。そんな思いを持ってエリアスを見つめた
【薔薇と炎の物語】を読んでくださる方々へ。
いつもありがとうございます。
この物語は全くもって不完全な文章で、読んでくださる皆様に申し訳ないと思っています。
物語を描き始めた頃兎に角書き上げる事を目標にし、ひたすら励んでいた段階の物語です。
この物語は描き終えていますが、手直ししアップするまでがなかなか出来ず、もう一つの作品に
集中してしまい申し訳ありませんでした。
ただ、この話から大幅に加筆し読み応えあるよう感情表現を増やしました。
突然の変化に驚くかもしれませんが、これもこの作者ねここの成長の一環だと思っていただければ幸いです。
この話以前の加筆は今は難しく、申し訳ありません。
兎に角、最終話に向けてコツコとを手を入れますので、よかったら引き続きよろしくお願いいたします。
心からの感謝を込めて
ねここ




