話し合い
「レオン,ここに座りなさい」
クララは「はい」と小さく返事をし、言われるがまま勧められた席に腰をかけた。背筋をのばし椅子の背もたれに背をつけず誠実な気持ちを持ってセリオを見つめた。何を言われるのか検討もつかないが、聞かれたことはちゃんと答えよう。
セリオは一分の隙もない鋭い眼差しをクララに向けている。只者ではない。まだ十六歳のクララにもわかるほど有無を言わせない威圧感がある。だけどウーゴとは違う、ウーゴは強欲さが垣間見れる薄っぺらい威圧感、このセリオ様は人生の厚みを感じる、重厚感ある威圧感だ。
セリオは黒のスーツを着ており胸には沢山の勲章が付いている。この帝国、いや、王家の絶大なる信頼を受けクララ達を指導する立場に立っているのだとわかる。
そんな人がクララだけを呼び出しこの部屋で話をする意図がまだ分からない。怖い,掌にも汗をかいている。だけど、クララは息をのみ覚悟を決めてセリオと向き合った。
「レオン、タピア公爵家から提出された書類には、レオンが精霊イフリートを召喚できると書いていなかった。その理由は?」
セリオは、覚悟を決めたように真直ぐにこちらを見つめるレオンの瞳に引き込まれそうになった。
青く美しい瞳は湖上に光が当たっているかのように輝いているが、その輝きの向こうに深い底知れぬ悲しみの色をみた。このアンバランスな瞳は見る者を魅了する。セリオはレオンを初めて見た時から感じていた不思議な魅力はこの瞳にあるのだと思った。、それに、、この子は,,。
クララは一度セリオから視線を外し、ふぅーと息を吐きまた真直ぐにセリオを見つめ言った。
「実は、私自身も確証のない事でしたので、父にも、誰にも話しておりませんでした。それにより騒ぎを起こし、皇女様を危険な目に遭わせてしまい申し訳ありませんでした」
クララは頭を下げて謝った。本当にイフリートが現れるとは、、それも私がイフリートの主人になっていたとは。三歳だったレオンの前に現れたと言っていた理由、、私が一度だけイフリートの名前を呼んだあの時だったのかもしれない。けれど、、知らなかったとはいえ皇女様や、他の公爵家の皆を危険な目にあわせてしまった。膝の上で握った両手が震えている。
「レオン、頭を上げなさい。、、その事実をタピア公爵家に話すことをどう思うか聞かせてほしい」
セリオはテーブルの上に手を置き指を組みながらクララに聞いた。
タピア公爵家に報告する?報告をしても良いのかと聞いてくれている?なぜそれを聞いてくれるのだろう?私が父に言いたくないと思っている事がわかるのだろうか、、。父には、ウーゴにはこれ以上何も言いたく無い、知って欲しく無い、関わりたく無い。クララは眉間に皺を寄せ深いため息を吐いた。
あの父がそんな事実を知ったら、、指先が小さく震えている。ウーゴはまたそれを利用しようとする。クララは唇を噛んだ。絶対に、、絶対に言いたくはない。