後悔
クララはナバス城に入り薔薇の庭園でエリアスを待った。エリアスはどこかで見ていたのだろう、すぐにクララの元に現れた。
クララはまだこの場所の記憶は取り戻していなかったが、なんとなく城の中に罪人の首を持っていく事に抵抗を感じこの場所にした。エリアスは何も言わず何一つ変わらぬ眼差しでクララを見つめている。
クララは以前と変わらないエリアスを見て泣きそうになったがグッと堪え視線を足下に移しタピア領での一部始終を報告をした。「エリアス様、ウーゴ、マカレナ,レオンの首を取ってまいりました。タピア家を残してくださる大きな温情に感謝いたします。ナバス帝国の為、エリアス様の為この身を捧げお仕えいたします。」クララは深く頭を下げた。「クララ頑張ったな。」エリアスは何か言いたげな表情を浮かべたが、何も言わず立ち去っって行った。
その姿を見つめながら自分で手離してしまったエリアスを追いかけたいと心から思った。けれど、廃墟と化したタピア家を見てそんな資格ももう無いのだと思い知らされル。フランシスカの記憶がエリアスにあるからと言って今のクララをずっと愛してくれる保証もない。エリアスは過去の後悔でクララを愛していると思い込んでいるのかも知れないし、フランシスカだけを見ていてクララ自身を見ていないのかも知れない。クララは両手を握り締めた。
過去のことで彼を縛り付けてもダメなんだ。フランシスカを忘れたくて忘れたのでは無い。あの壁の文字を見てどれだけ愛されていたのかフランシスカ、わかったよね。もう忘れよう。ルカスを苦しめるのもやめて彼を自由にしなければ。追いかけたいけどそれをしてはいけないんだ。エリアス様も私がフランシスカだから気にしてくれてて、そうじゃなければ、、きっと相手にもされない、エリアス様の記憶が消えた方が良いのかも知れない。だから、やっぱり諦めよう。
クララは複雑な気持ちを抱きながらトボトボと部屋に戻った。
もうすぐエリアス様が黒龍と戦う。今更だけど、もし私を忘れてしまったら私は嬉しく思う気持ちがきっと生まれる。皮肉なもの。こうなって彼の本音をこんな形で確認したいとさえ思い始めている。私は愛されていたと。
けれどミスティルテインで戦ったら私を忘れないかも知れない。もし、記憶が残ったら愛していますと伝えたい。素直になりたい。
でも、そう思う自分は、、とてもずるい。
私はもう純粋な人間ではなくなったのかも知れない。
実父である父を、義理の母であり叔母であるマカレナを、義理の弟であるレオンをこの手で殺してしまった私が汚れていないわけが無い。
もうあの美しく穢れのないエリアス様の隣には立てない。私は浅ましい人間なんだわ。
その夜クララはこれ以上泣けないほど泣いた。枕に顔をつけ嗚咽を押し殺しただひたすら涙を流した。
もう私には何も無くなった。今私が持っているものは廃墟になったタピア領だけだわ。
「セリオ、クララが戻ってきた。ウーゴ達の首を持って、、」エリアスはセリオの執務室のソファーに腰をかけ言った。「エリアス様、クララはケジメをつけました。タピア領は廃墟と化し立て直すにも相当な時間が必要でしょう。どうなさいますか?」セリオは疲れた顔をしているエリアスに聞いた。「クララを助けてあげたい。出来ることなら今すぐにでも。だけど彼女は私の助けを求めない、、だから早く古から続くこの歪な関係を壊しクララを誰一人いないタピア公爵家の鎖から自由にしてあげたいんだ。その為にまず黒龍との戦いは聖剣ミスティルテインで戦う。大切なものを無くさなくて済むから。」エリアスは言った。「黒龍との戦いが終わりさらに魔力が増したエリアス様は古の契約を破棄する為に戦うのですね?ミラネス王家の呪いと、公爵家の契約をした古の神々と」セリオは言った。「ああ、その為にはあの四人に話さなければならない。真実の話を」エリアスは覚悟を決め、全てを彼らに話し、彼らと共に戦いたいと願った。