イフリート降臨
「次!」
初老の男性の声が響く
クララは不安な気持ちを抑え、覚悟を決め深呼吸し皇女を見つめた。
皇女とクララ、二人の視線が合わさったその瞬間、皇女は瞳を大きく見開いた。クララはそんな皇女を見て胸に強い痛みを感じ気が遠くなりそうになった。
何?今の?!!
「次!!」
室内の空気を切り裂くような男性の厳しい口調を聞き、我に帰ったクララだが既に平常心を失っていた。
ああ、もう何も考えられない、、。クララは無意識に近い状態で自己紹介を始めた。
「あ、申し訳ありません、タピア家のク、、レオンと申します。年齢は十六歳,,ではなく、十四歳、、、この度、、炎の精霊、、、より覚、覚醒を受け、、」
「精霊の名前を言いなさい」
初老の男性がすかさず言った。
クララは既に平常心を失っている。皇女様の前で嘘を言っている上にイフリートと言わなければならない。どうしよう、、どうしよう、、クララは「イフリート」と言うことを躊躇した。
なぜならクララが精霊の名前を呼ぶとイフリートは,目の前に現れてしまう可能性がある。
幼い頃炎の精霊の名前はイフリートだとタピア家の歴史書を読んでいた時に知り、一度だけイフリートと呟いた。その瞬間大きな炎を纏ったイフリートが現れた。あまりの迫力にクララは卒倒しそれ以降の記憶がないが、それ以来一度も名前を呼んだことは無かった。
だから今,ここで名前を呼んで万が一イフリートが現れたら、、
怖い、どうしたらいいの?逃げたい、でも逃げられない、、。クララはもう一度気持ちを整える為に深呼吸をした。ゆっくりと息を吐き覚悟を決めた。
こうなったら仕方がない。もう、、どうにでも、、なれだ。クララは両手を強く握りしめ言った。
「精霊の名は、、イフリート!」
その瞬間広間の温度が急激に上がり異変に気がついた初老の男性が防御魔法を唱えた。皇女と、カルロス、グロリア、ダフネはイフリートの炎から守られた。皇女は微動だにせずイフリートを見つめている。カルロス、グロリア,ダフネはその迫力に後退りをし、息を飲んでいる。
クララは呆然とし目の前に現れた炎の精霊イフリートを見つめた。なぜこうなるのだろう、、。
「どうしよう、、」
クララはイフリートを見て呟いた。
その様子を見ていた皇女は徐に椅子から立ち上がり壇上から中央の階段を降り、クララの横に立った。初老の男性はその様子を見ている。クララは震えながら隣に立った皇女を見た。皇女もクララを見つめている。どうしよう、、クララは皇女に間近で見つめられどうして良いのかわからない。けれど視線をそらせない。どうしよう、、皇女はその様子を見て目を細めた。クララはその瞳を見て不安だった気持ちがスッと引いてゆくのを感じた。この人は特別な人だ、、クララは不思議な力を感じた。
「素晴らしいですね」
皇女はイフリートを見つめながら話しかけてきた。クララはどうして良いのか分からず答えることも出来ず視線を下げ足元を見つめた。
「レオン、、命令をしなさい」皇女は柔らかな口調で言った。
「皇女様、、命令ですか?」クララはその言葉を聞き顔を上げ緊張気味に皇女を見た。
「この精霊はあなたを唯一の主人だと思っています.。あなたの言う事を理解し聞きますから言ってごらんなさい」皇女は優しく微笑み言った。
「主人?、、イフリートの、、」クララは自分がイフリートの主人だと夢にも思っていなかった。皇女は何も言わずに頷いた。クララは信じられなかったが、とにかく今はこの事態を収めることをしなければ、、そう思い頷きイフリートに言った。
「、、イフリート、呼び出してごめんなさい。今は用事がありません。ごめんなさい」
その言葉を聞いたイフリートはフッと消えた。うそ?!クララは驚き皇女を見ると、皇女はクララに笑いかけ元いた場所に戻って行った。ああ、緊張して気が遠くなりそう、、。クララはどっと疲れたが、まだ挨拶が終わっていない。カルロス達の視線が痛い。完全に浮いてしまった。クララは一息吐き、気持ちを整え言った。
「、、失礼、いたしました。帝国の為、ミラネス王家の為に尽くしたいと、、誓います。」
皇女は改めてレオンを見つめた。赤茶のミディアムショートの髪、首筋にかかる髪は柔らかい曲線を描き首に沿っている。その髪の隙間から見えるうなじが不思議な色気を醸し出し、体の線も細く男性にしては華奢な身体が中性的な魅力を放っている。そして青い瞳は澄んだ湖が光に反射した時ようにキラキラとした輝きがあるが、どこか寂しげにも見える。
あの瞳、、、。レオンは本当に男?、、イフリートはなぜ、、。
タピアカラーの真赤なローブを羽織るレオンのその姿は凛として美しく見えた。、、あの子は、、あの魂は、、、。
レオン・タピア 、、
皇女はもう一度レオンを見て頷いた。
初老の男性が言った。
「こちらにいらっしゃる方は帝国の皇女リアナ様だ。皆と同じ十四歳でこの誉れ高いナバス帝国の後継者である!今後一緒に行動をする。失礼のない様対応するのだ。」
「そして私はセリオだ。今回この四大公爵家の後継者たちを世話する者だ。」
セリオは四人に自己紹介をし、リアナ皇女の方に振り向き言った。
「リアナ様、何かございますでしょうか?」
リアナは首を横に振った。その時長い髪が左右に揺れそんな動作一つとっても優雅で美しく見える。四人はリアナに見惚れていた。
「諸君!部屋に案内する。リアナ様ありがとうございました。ご退出くださいませ」
セリオはリアナに頭を下げた。四人も同じ様に下げリアナを見送った。