信じる要素
クララはリアナを見上げ次の言葉を待った。が、リアナはなにも言わず脚立の上からクララをじっと見つめている。クララは気まずくなりリアナから目線を外し足元を見つめた。
きっとリアナ様は私に不信感を抱いたに違いない。でもどうすることも出来ない。
クララは小さく一息はき、リアナに頭を下げ昨日座った角の席に腰をかけた。何かを言いたいのに言えない、聞きたいのに聞けない微妙な沈黙が気まずく気持ちがざわつく。心を落ち着かせるためテーブルの上に置いた自分の指先を見つめた。少し震えている。
リアナ様、先ほどの私の魔法を見てどう思ったんだろう?あんな強烈な炎を見てこの子は危ないと感じたのかもしれない。こんな事が続いたらリアナ様に嫌われてしまう、、。鼻の奥がつんと痛んだ。最小の炎の魔法を見せると言いながら森を全焼させる勢いの魔法を使い、挙げ句の果てに知らない魔法まで使ってしまった。本当に私はどうなってしまったのだろう?何一つ自分でコントロール出来ない。そんな私を見てリアナ様は優しくして下さったけれど心の中ではきっと不信感を抱いたはず。
そもそもリアナ様のイフリートを横取りした私に好感など持てるはずもない。あんな強烈な魔法を見てますます怪しく思われたはずだ。だけど私は謀反など企んでおりません。潔白です!と、言っても父に脅迫され弟のフリをしてここにいる私は既に裏切っている。信用してもらうに値しないのも事実だ。
フランシスカ・タピアの子孫だけど、なぜフランシスカの思いを汚すような事に加担しているんだろう。レオンさえしっかりしてくれていたらこんな事にならなかったのに。レオンは本当にちゃんとした魔法が使えるようになるのかしら?全てが複雑に絡み合ってしまい前にも後ろにも動けない。でもやっぱりリアナ様には嘘をつきたくないし嫌われたくない。
クララは顔を上げチラッとリアナの方を見た。リアナは視線を感じたのか手に持っていた本から視線をはずしこちらを見た。クララは慌てて視線を逸らしまた指先を見つめた。
あー驚いた。リアナ様を見ていたことわかったのかな?緊張する。リアナ様、何を読まれているんだろう?クララ胸の鼓動はリアナまで聴こえるではないかと思うほど大きくなった。それに胸が締め付けられる感覚は甘い痛みがある。クララは初めての感覚に戸惑っていた。
リアナ様を見ると嬉しいよう恥ずかしいような、病気になったみたい胸が苦しく、走った後のような鼓動感を感じる。二人きりでこの部屋にいると考えるだけで緊張する。
でも気になって意識せずとも自然に目線が向く。クララは両手で顔を隠し指の隙間からもう一度リアナを見た。
リアナは指の隙間からこちらを見るレオンの姿が目の端から見え本を顔に当て笑いを堪えた。今この部屋にいるのは指の隙間から私を見つめる気が弱いレオン。丸見えだと言ったら泣き出しそう。けれどこの印象とは真逆の先ほどの魔法。レオンは一体何者?
指の隙間から見えるどこか寂しげに揺れる水色の瞳から目が離せない。
クララは指の隙間からリアナを見ていたが、リアナが本を顔に当て笑いを堪えているような仕草をした瞬間、こっそり見ていたことがバレたのだとわかり全身の血が沸騰するほど体が熱くなった。こっそり見ていたのがバレたんだわ!恥ずかしさのあまり真っ赤になった顔を隠すように下を向き両手をテーブルの上で組み指を動かしながら気持ちを誤魔化していた。
あ、そういえば、、。お昼に薔薇の棘で怪我をしたことを不意に思い出し人差し指を見た。すると指に薔薇の蔓が絡みついている様に見える。まるで指輪のようだ。
なにこれ?目を擦り何度も人差し指を見つめる。何度見ても薔薇の蔓が見える。いやいや、なにこれ?左手で右の人差し指を触るが普通に指の感触だ。とうとう目もおかしくなってしまった、、。
「薔薇の誓い」突然リアナが言った。「薔薇の誓い、、、」クララは母のことを思い出し顔を上げた。「リアナ様、、薔薇の誓いをご存知でしょうか?王家とタピア家の契約、、、。」クララはリアナを見上げ聞いた。「五百年前からのフランシスカの誓い、、」リアナは呟いた。「、、母が、、当主だった母が亡くなり、、誰一人その内容を知っている人間がいないのです。私は、、その契約が随行できることを望んでおりますが、今日の私をご覧になって、、タピア家に対し,私に対し不安に思われても仕方がないと思っております、、」クララは自分がレオンではないことが苦しくなり下を向いた。どんな言葉を言っても実際は裏切っている。「その話は、、あ、セリオが来た、レオン、ここに私がいたことは内緒に、、」リアナはそう言って一瞬で消えた。なに??魔法??「待たせたかな?」セリオが図書室に入って来た。クララは立ち上がり「いいえ」と答え頭を下げた。