歴史
朝食を終えた後、同じ三階の北側の塔に案内された。そこは講義ができる部屋になっており二十人ほど入れる教室のような作りになっていた。北の塔は北側にあるにもかかわらずここも他の棟と同じように光に溢れていた。部屋は長方形になっており入り口から入ると奥に黒板がありその黒板の前に教授席、それと向き合うように生徒の席が並べられておりクララ達は前列にそれぞれ座り、リアナはその二つほど席を離した後方に腰をかけた。要するに後ろからリアナに見られているような形だ。考えてみたら王族はそうそう背中はみせない。王族に限らず身分が高い者は低い者に対しそうそう背は見せないのは常識だ。襲われてもすぐに対処ができないからだ。
教授席にセリオが腰をかけ話を始めた。
このナバス帝国の歴史は長い。初代ナバス帝国のエリアス皇帝は建国の際、この国を盤石なものとする為に四人の信頼できる部下にエリアス皇帝の精霊の力を与え、部下達は絶対的な忠誠をエリアス皇帝に誓った。
初代アンヘル公爵家イサークには大地の精霊ノームの力を、初代アドモ公爵家レアンドロには水の精霊ウエディーネの力を。初代モリアーナ公爵家ルイスには風の精霊シルフィードの力を、そして初代タピア公爵家ララには炎の精霊イフリートの力を与え、それと共のそれぞれに精霊の魔法石を渡し、その魔法石にそれぞれの力を注げば各公爵家の皇帝に対する忠誠の証として魔法石が光り輝きその対価としてそれぞれの地位,名誉,財産が守られる。そのようにして今日まで王家と公爵家は信頼を紡いできたのだ。
「ここまでは皆も知っているだろう?」セリオは四人を見つめ言った。クララはタピア家初代当主が女性だったことを改めて思い出した。タピア家の歴史を見ても男性が当主になるよりも女性が当主になる割合が高い。女系の家なのだ。けれど、、
セリオは話を続けた。五百年前、このナバス帝国と同じ規模のカンタン帝国と戦争が起きた。その時各公爵家と王家は共に戦っていた。その結果戦いに勝ちナバスはさらに大きな帝国になった。
「これは皆も知っている歴史だ」セリオが言った。カルロス、ダフネ、グロリアは頷いている。クララだけは頷けなかった。五百年前、本当の歴史はタピア公爵家がミラネス王家を裏切ったのだ。クララはセリオがこの話を始めるのだとわかり、心の中で覚悟をした。セリオはそんなクララの様子を見て小さく頷き話を始めた。
「ここから話す話は誓約魔法をかけて話す。他言無用、万が一誰かに話すことがあればその者の家は歴史に消える。王家反逆という汚名と共に。良いな?」カルロスは背筋が伸び、ダフネとグロリアは生唾を飲んだ。クララは静かに前を向いた。
「五百年前、タピア公爵家当主フランシスカの義理の弟ラミロは、カンタン帝国と秘密裏で手を結びこのミラネス王家を滅亡させようとした。
ことの発端は、フランシスカの義理の弟が姉の知らぬ間にカンタン帝国の間者を公爵家に忍び込ませていた。それを知らないフランシスカは公爵家主催のパーティを開催し、その当時のミラネス王家ルカス皇帝は妹のアデリナ皇女をそのパーティに参加させていた。その際にラミロの手引きでパーティに忍び込んだカンタン帝国の間者がアデリナ皇女を拉致し皇女は人質としてカンタン帝国に連れてゆかれた。
ルカス皇帝は何としてもアデリナ皇女を取り戻さなければならなかった。なぜならアデリナ皇女は神との契約により神殿に聖女として入ることが決まっていたからだ。この詳細は王家の成り立ちにも関わる話だ。それはいずれ。
ルカス皇帝は窮地に陥った。タピア以外の公爵家は団結しタピア家を取り囲み黒幕を探した。黒幕はタピア当主のフランシスカではないことは明確だったが、一蓮托生という言葉があり、一族の罪は当主の罪である。フランシスカはモーリス公爵家、アンヘル公爵家,アドモ公爵家の兵士に取り囲まれる中で黒幕のラミロの首を差し出しルカス皇帝に言った。三ヶ月の時間をくれたら必ずアデリナ皇女を取り返すと、その間忠誠心を示す魔法石を三つに分けモーリス,アンヘル,アドモ公爵家に渡し、ミラネス王家には命を代償に薔薇の契約を結んだ。これは王家とタピア公爵家との契約だから話すことはできない。その後言葉通りフランシスカはアデリナ皇女を取り戻した。そしてタピア家当主のフランシスカは一連の罪を背負い自決した。
それにより建国始まって以来初めて公爵家が減ったのだ。
フランシスカが自決した時、それぞれの公爵家がが持っていたタピア家の魔法石が突如光だし光がある家を照らした。三つの公爵家当主はその魔法石を持ち光が指す家に向かうとそこにはフランシスカそっくりな女の子がイフリートの祝福を受け覚醒していた。魔法石が選んだ女児はフランシスカの娘だったが、フランシスカは結婚をしていなかった。その子の父親はわからない。けれど魔法石はその少女を選びその少女はタピア家の血筋であり新生タピア公爵家として認められ、今のタピア公爵家になったのだ。この話は表には出ていない。なぜなら王家が公爵家に裏切られ、タピア家が王家を裏切るというあってはならない歴史だからだ。だからミラネス王家とタピア公爵家以外この真の歴史を知らない。王家と各公爵家が共にカンタン帝国と戦い勝ったという歴史になっているのだ。
五百年前、魔法石はたまたまフランシスカの娘を選んだが選ばなければタピア家は滅亡し、反逆という罪人として処理される。裏切りとは即一族の死と滅亡を指す。良いか、心に留めておくのだ。ではこの話は誓約魔法によって保護される。」
セリオがそういうと目の前に誓約書が現れ四人はその誓約書にそれぞれサインを書いた。その瞬間誓約書は消えた。