ミモザ
翌朝、起きるとカーテンの隙間から光が差し込んでいた。その光は強く、いつも邸宅で見る朝の光と質が違うように感じた。
あ,ここは水晶でできているお城だった。だからこんなに光が眩しいのね。クララはベットから降りカーテンを開けた。この部屋もあの図書室と同じく天井が高くその分窓が大きい。カーテンの向こうには大きな木がありその緑色の葉は細長く細かくよくよく見るとミモザの木だった。こんなに大きくなるんだ。昨日の食事会は楽しかった。クララはミモザを見つめながら昨夜の事を思い出していた。
「レオン様おはようございます」声の方を振り返るとカルメラが立っていた。「カルメラ、おはよう」クララはカルメラを見て挨拶をした。「ドアをノックしたのですが、、カーテンを開ける音を聞いて入ってしまいました。」カルメラは申し訳無さそうに一礼をした。「ああ、ごめんなさい、このミモザの木が立派で、、見入ってしまって、、」クララはまたミモザの木を見つめ言った。
「レオン様、このミモザは白ミモザです。春先に美しい白い花が咲きます、それは見事です」カルメラはクララの近くに来て教えてくれた。「白いミモザ、、見たことがないから見てみたいです。でも来年ですね」クララはこの生活がいつまで続くのか知らない。数年だとは聞いているが、、、数年間もレオンでいられるかわからない。ミモザを見つめながら漠然と不安になった。
「レオン様、朝食まで時間があります。入浴の準備をいたします」カルメラはそう言ってバスルールに入って行った。クララはまたミモザの木を見ていたが、この部屋にバルコニーがあった事を思い出し大きな窓の一番端にあるガラスの扉を開けてバルコニーに出て行った。
バルコニーに出ると目の前は美しい庭園が見渡せるようになっており、庭園の緑と青空のコントラストが綺麗でクララは感動した。こんな美しい景色を毎日見られるリアナ皇女を羨ましく思った。リアナ様、清らかで美しい皇女様。昨夜の薔薇のことを思い出し胸がときめいた。
それに比べて、、クララはほとんど邸宅の中で過ごしていた。タピア公爵家のクララの部屋は一階の北側、常に日陰で暗い部屋だった。父親のウーゴから服や装飾品は与えてもらえたが、それ以外の愛情表現をしてもらったことも無かった。
弟のレオンはタピアを継ぐ嫡男として育てられていた。しかし甘やかされて育ったせいで礼儀作法も中途半端でレオンの傍若無人な振る舞いを見て恥ずかしいと思うことが何度もあった。それに比べてクララは厳しく育てられ少しでも作法を間違えると鞭で打たれた。そのおかげで礼儀作法は問題なく行えるが、常にレオンとの差を感じ生きてきた結果、まさかレオンの身代わりをさせられるとは夢にも思わなかった。
、、バルコニーの横に木陰が出来ている。今は六月、、来年見られると良いな。クララはミモザの柔らかい葉に触れながら思った。
「レオン様入浴の準備が整いました」カルメラが呼びにきた。「今行きます」クララは室内に入りカルメラに言った。「入浴も自分で出来ますからお構いなく、終わったら呼びますのでそれまで休んでいて」カルメラはクララ一礼をし、部屋から出て行った。
「ふぅ、入浴を手伝ってもらったら女の子だとバレちゃう。こんな調子で数年過ごせるのかしら、、本当に不安だわ、、、。」クララ短い髪に触りながら俯いた。私は、普通に生きたかった。どこで間違えたのだろう。お父様は元々タピアの人間では無い。タピア家当主だったお母様の婿養子としてタピア家に入った。婿として一族からのプレッシャーもあったと思う、だけど鉱山を掘り当てて一族に認められた。だけど火災で母が亡くなり私が生まれ、、、。義弟は母の腹違いの妹と父の子だ。お父様はレオンを後継者に選んだ。
お母様、、私はこの先どうしたら良いのでしょうか?
クララは大きくため息を吐き短く切った髪に触った。