男同士
リアナ皇女とセリオの視線を意識してしまいクララはどうすれば自然に振る舞えるのか分からなくなっていた。自分のワイングラスを見つめ、ふと隣のカルロスを見るとカルロスは豪快にワインを飲み干していた。うわ、すごく豪快に飲んでいる!飲み慣れているのかしら?本当に十四歳?クララは隣に座るカルロスを見つめた。
カルロスはクララの視線に気がつき、「俺はカルロス、よろしく」と言って微笑んでくれた。
クララは嬉しくなり「はい、私はレオンです。レオンと呼んでください」と言って微笑んだ。
「俺もカルロスと呼んでくれ」と言いながらグラスを持ち上げた。すぐさま空になったカルロスのグラスにワインが注がれクララもワイングラスを手に持ち二人は乾杯した。
ああ,カルロスが良い人でよかった!!
クララが心の中でホッとしていると「レオン、お前はいつ覚醒したんだ?」とカルロスが言った。覚醒、、、クララは考えた。覚醒した記憶がない、気がつけば今の状態になっていたからだ。
「、、幼い時かな、ところでカルロスは兄弟とかいるの?」クララは話を逸らそうとし聞いた。「兄弟はいるよ、兄と姉」カルロスはワインを口に含みながら言った。「仲良い?」クララはレオンのことを考えながら言った。「仲、、歳が離れてるけど普通だな。」カルロスが言った。
普通、、普通ってなんだろう。父が娘に弟のふりをさせ、その娘が病死したことにする事が普通ではないことくらいクララにだってわかる。
「レオンは?」カルロスが聞いた。「、、姉がいる。」クララは自分が死んだと言いたくなかった。「ところでカルロス、ワインが好き?」クララは話題を変えた。「ああ、幼い頃から飲んでいた」カルロスはそう言ってまたワインを口に含んだ。「幼い頃からか、モリーナ公爵家は開放的なんだね」クララは羨ましく思った。タピアは、、ちがう、私はそんなことは許されなかった。レオンはなんでも好きなもの,好きなことをしていたのに。
「レオンはワイン好き?」カルロスはワインを口に含みながら聞いて来た。クララは正直に答えた。「実は、ワインを飲むの初めてなんだ。」そう言って少し恥ずかしくなった。なぜならクララ以外皆ワインを飲み慣れているように感じたからだ。「嘘だろ?!レオン初めて?!」カルロスはかなり驚いた様子でクララを見ている。「え?そんなに驚く?」クララは驚くカルロスに逆に驚き聞いた。「だって、パーティとか、何飲むんだ?流石にジュースはないだろ?!」カルロスは楽しそうに笑いながら言った。「パーティか、私はあまり参加しなかったからね、、」クララは言った。タピアで行うパーティは苦痛だった。ドレスは毎回新調してもらえたのだが、レオン。あの子は礼儀作法が滅茶苦茶で、誰彼構わず令嬢たちに声をかけ見ていて本当に恥ずかしく、こんな思いをするのなら参加しないと決めた。だから強制的に参加しなければならないパーティ以外は参加しなかった。「タピア公爵家はなんだかむつかしいんだなぁ」カルロスは頭をかきながらクララにワイングラスを差し出しまた二人は乾杯した。
「レオン、タピア家は女性当主が多い家系だったよな?」カルロスは前菜を口に運びながらクララに言った。女性当主という言葉に反応し、一瞬自分が女だとばれるんじゃないかと全身の筋肉が硬直したがワインのおかげですぐに気持ちが落ち着いた。過剰に反応してしまう自分が嫌になる。「そうだね、、。モリーナ家はどっちが多いの?」クララは手に持っていたナイフとフォークを置きカルロスに聞いた。「、、、わかんない。興味ないって言うか、我がモリーナは自由だから大抵のことは気にしないんだ!風の性質ってやつ?」カルロスは生ハムを頬張りながらウィンクして笑った。
羨ましい、明るく自由なモリーナ公爵家、タピアとは全く違う。タピア家は薔薇に炎。性質ってなんだろう?元々、五百年前は炎だけだった。薔薇と炎になったのはフランシスカ・タピア当主以降だわ。タピア家は他の公爵家と違う。私が今していることは五百年前の事件に通じる行為なのかもしれない。怖い。セリオ様に、リアナ様に本当のことを話せたら、、。クララはワインに手を伸ばし一口飲んだ。
「ちょっと、男同士で話して、紳士じゃないわよ?」
ダフネが二人に話しかけてきた。