リアナ皇女の視線
クララは目の前に置いてある皿を見つめていた。別に皿が見たいわけではないがこの微妙な沈黙を乗りきるには皿を見つめる以外方法が無かった。
テーブルの上にはナイフ,フォークなどのテーブルウエアーが既にセッティングされておりどれも美しく輝いていた。そしてテーブルの中央には花が置いてあり低めの長方形の白い花瓶には色とりどりの薔薇が生けてあった。大輪の薔薇や蕾が所狭しと生けられており瑞々しく輝いている。クララはその薔薇に触れてみたい衝動に駆られた。花瓶から溢れ出そうな蕾の薔薇を直そうと、そっと手を伸ばしその蕾に触れた瞬間「全員起立!」セリオの声がし慌てて起立した。
入り口を見るとリアナ皇女が入ってきた。リアナ皇女はオフホワイトのドレスに皇室の紋章が入った白のマントを羽織っている。その紋章は刺繍されており、四つの公爵家の印である薔薇、龍、月桂樹、鷹に皇室の聖剣が四つの紋章の真ん中に描かれている。その姿は上品で美しく圧倒的なオーラを感じた。四人はまた改めてリアナの美しさに釘付けになった。普通に歩いているだけで優雅だわ。クララはリアナの姿に見惚れていた。
リアナ皇女がテーブルに着いた。ハッと我にかえりクララはセリオがどこに腰掛けるのかみているとリアナ皇女の対極の席に腰をかけた。クララから四つの向こうの席だった。
この空間、気になる。クララはそう思い空席を見つめた。
「皆さん、改めましてリアナ・ミラネスです。よろしく」
リアナ皇女が微笑みながら四人に声をかけた。四人は背筋を伸ばし一礼をした。
「みなさんと共に過ごす最初の日です。皆さんがどのような人柄なのか知りたいと思っております。気軽にお話しくださいね」
そう言ってリアナはグラスに手をかけた。すぐにグラスにワインが注がれ、クララ達のグラスにも注がれた。そのワインは真紅色でタピア公爵家のローブの色を思い出した。
まるで血の色、、クララは初めてタピアカラーの真紅を見た時に思った。
「このワインの色は、まるでタピア公爵家の色のようですわね」
突然リアナがクララに言った。え?考えを読まれたの?!クララは驚きリアナを見るとリアナはクララに微笑んだ。クララは緊張しながらも笑顔を作り答えた。
「、、はい、タピア家の色は真紅でございます。この身が紅に染まるまでミラネス王家に忠誠を誓うという意味が込められております」
クララは、そんなことを言いながら先ほどのイフリートの事を一瞬考えた。私が悪意を持ってイフリートを召喚したらこのタピアの真紅はもっと黒に近い色に変わるのかもしれない。怖い。膝の上に置いた手の先が震えた。
そんな考えを見透かしているのかわからないがリアナ皇女は優しく頷いた。クララは震える指先を隠すように手を握りしめ慌てて微笑み返した。
「では皆様との出会いに」
リアナはワインに口をつけた。クララも慌ててワインを持ち口をつけたが、グラスを持つ手が少し震えた。クララ、落ち着くのよ。大丈夫。自分に言い聞かせもう一度ワインを口に含んだ。
初めてワインを飲んだ。とても美しい真紅の飲み物は大人の味がした。ほろ苦く、どこか官能的。皆十四歳なのにワインを飲んで良いんだ,,。クラスはグラスの中の赤いワインを見つめた。
タピア家は王室と最も近いと言われる公爵家だ。近いという意味は信頼されているという意味。この身が紅く染まるまで、、要するに死をも厭わない、そんな忠誠心の高いタピア公爵家なのになぜリアナ様のイフリートが、、。お母様が生きていらっしゃったらどう思われるのだろう?まさか私が男のふりをしてここに潜り込んでいるなど、、。
クララはまた不安に押しつぶされそうになりワイングラスをぎゅっと握った。ふぅ、、小さく息を吐き顔を上げるとリアナ皇女が怪訝な顔で見つめている。しまった!気を緩めて考え事を,,クララは出来るだけ自然に視線をリアナからワインにうつし、美味しい、、、と、声にならない声で呟きそれを一気に飲み干した。
怖い、リアナ様に視線を向けられない。全て見透かされそうで、、。セリオ様もきっと私を見ている。気を緩める事は出来ないのだわ。