旅に
「あれから一年か」
エリアスは皆の顔を見ながら言った。
「エリアス様、あっという間でしたな」
セリオはいつもの離れた席に腰をかけワインを片手に持ちながら言った。
「ああ、精霊王の封印を解き、たった一年で新しくこのルベルタ帝国を作り上げ、まとめる事ができたのも皆のお陰で心から感謝している」
エリアスもワイングラスを少し上に掲げ一口飲んだ。それにならい全員ワインを口にした。
「ところで、グロリア、モリアーナ家に挨拶に行ったと聞いたが?」
エリアスはグロリアに聞いた。グロリアはワインをテーブルに置き,嬉しそうな表情を見せながら話し始めた。
「エリアス様、モリアーナ一族は風の性質がございます。とても自由で明るく、とても素敵な方々でした。これも神のループのままでしたら私もカルロスとの結婚は出来なかったでしょう。でも今はそれが可能になり本当に嬉しく思います」
グロリアはそう言ってエリアスに頭を下げ、カルロスを見て微笑んだ。
「エリアス様、セリオ様、私たちは本当にあのループから解き放たれ真の自由を手に入れました。自由だからこそエリアス様にも、グロリアにも誠実でありたいと思っております。」
カルロスはそう言ってグロリアを見つめ小さく頷いた。
「その前に、私に誰か紹介してくださらない?」
ダフネは不貞腐れた様子でカルロスに言った。
「ダフネ、実は私には息子がいる。ダフネに紹介しよう」
突然セリオがダフネに言った。
「え?!」
全員が驚いた。
「セリオ様、なぜ私に紹介くださるのですか?」
ダフネは驚きながらセリオに聞いた。
「ダフネは私の、アルカイン家の精霊と相性がいいのだ。ダフネが偶然に時の精霊石を手に入れた事がなによりもその証拠なのだ。嫌かな?」
セリオは聞いた。
「い、いえ、恐れ多くて、、」
ダフネは立ち上がりセリオに向かって言った。セリオはエリアス同様に尊敬する人物だ。その息子を紹介してもらえるなど夢にも思わなかったのだ。
「ダフネ、セリオの息子リカルドは帝国の騎士団長だ。知っているだろ?」
エリアスは驚くダフネに微笑みながら言った。
「え?エリアス様、本当ですか?リカルドといえば黒髪の騎士と言われるクールな男で今令嬢たちに一番人気がある男だと聞いたぞ!」
カルロスが興奮気味に言った。
「でも、リカルドはたしか、リカルド・テジョスだったような」
クララが言った。
「クララ詳しいな、エリアス様以外の男も興味あるのか?」
カルロスは笑いながら冗談を言った。
「もう!カルロス最低ね。レオンの時からカルロスは私を揶揄って!!」
クララはカルロスを睨んだ。その様子を全員が笑う。
「そう、クララのいう通りラストネームが違うのは親の七光だと思われたくないと言って、偽名なのだ」
エリアスは言った。ダフネはリカリドを知っている。とても素敵な騎士で、まさかセリオの息子だとは思っていなかった。
「セリオ様、嬉しいですわ、そのお話喜んでお受けいたします!」
ダフネは喜びに飛び上がりセリオに言った。
「うむ、ではそのように、」
セリオも優しく頷きダフネに言った。
「うむ、話はまとまったな。そういうわけで私とクララは旅に出るが、カルロスとグロリアの式までには戻るから後はよろしく」
エリアスは言った。
「エリアス様は本当にすごい行動力ですね、どちらに旅されるのですか?」
グロリアは聞いた。
「異世界だ」
エリアスはワインを口に含み言った。
「異世界?どこですか?」
カルロスが想像もしていなかったエリアスの言葉に食いつく。
「異世界とはこの世界では無い違う世界のこと。私が行きたいのはこの帝国とは質の違う魔法を使う世界だ。私は神の血が入っているから異世界までも見ることができるんだ。」
「へぇ、そんなことまでわかるなど、エリアス様に隠し事はできないな!」
カルロスは目を丸くしエリアスを見た。
「ここは精霊が主体の魔法、その世界はドラゴンだ。互いの魔法は質が違うから私の魔法は無効になるが、戦いにゆくわけではないからな」
エリアスはクララを見つめ目を細めた。
「なぜそんな異世界に?」
グロリアはなぜそんな遠いところに行くのか不思議に思った。
「グロリア、その世界は全員が魔法を使える所なんだ」
エリアスは言った。
「え?!!それは凄いですね。我々とは真逆に近い。まあ、これからはこの帝国も変わるでしょうが」
カルロスはワインを一気に飲み干した。
「けれども、その世界にはたった一人魔法が使えない人間が異世界から召喚される。その時、その時代の一番魔力が高い魔法使いと結婚しなければならないという誓約があるらしいのだ。理由はわからないが、我々の神の誓約に似ている」
エリアスは言った。
「なんとも言えない話ですね」
クララは複雑な気持ちになった。
(突然たった一人魔法が使えない世界の人間になってしまったら神から見放されたように感じるかもしれない)
「確かに、最強の魔法使いと、全く魔法が使えない人間が結婚、どちらも歩み寄るまで大変そうですね」
グロリアも言った。
「私はそこにも神が関与していると思うのだ。神は完璧ではない。この世界も神も精霊も人も協力しあい世界を作る。だからまだそのような状況にある世界を客観的にこの目で見てみたいと思ったのだよ」
エリアスは言った。
「あの日、エリアス様がミスティルテインを大地に突き刺した時、見えない壁が崩れていくように見えました。その後、世界が本当の色を取り戻したような、精霊王が復活し、全ての精霊が精霊王の前に現れたあの瞬間、世界が逆転したように感じました」
クララはあの日を思い出し言った。
「そう、あの瞬間、神の血を引いたエリアス様が精霊王の上に立ち、彼らを解放し、今は神の力が少なく、精霊の力が強くなり自然の力が取り戻された。奇跡は起きない。全て積み上げたものの結果でしかないんだ。神は大きな奇跡を起こすが必ず代償があるからな」
セリオが言った。
「エリアス様は異世界に行きその世界の神を見るのですか?」
ダフネが聞いた。
「フフフ、単純に魔力が強い魔法使いに会ってみたいだけだよ。分かり合える気がして」
エリアスはそう言ってクララを見つめた。
「エリアス様はなんだかんだ言ってクララと出かけたいのですね?」
カルロスがウィンクしながら言った。
「うむ、否定はしないな」
エリアスはカルロスにワイングラスを向け乾杯した。
「カルロス、よろしく」
カルロスもワイングラスを傾け言った。
「エリアス様の信頼に全力で答えます。お帰りお待ちしています。」
数日後、エリアスとクララは二人きりで旅に出かけた。
セリオの魔法を使い異世界にある魔法の国へ。
【炎と薔薇の物語】通称リボンを読んでくださっている読者様へ。
残り一話で長い物語が完結いたします。
この拙いお話にお付き合いくださって心よりお礼を申し上げます。
この話の中で『魔力のない人間と魔法使い』の言葉が出てきました。
実はこの物語は私の別の作品【この結婚が終わる時】の前に書いていたお話で、この話が終わったら、
【この結婚が終わる時】に繋げようと考えておりました。
結局それはしませんでしたが、その流れとなるはずだったこの話は削除せずアップすることにしました。
そんな思い出を思い出しつつ、初めて完結を断念しようとしたこのお話を続けられたのも、
感想をくださった方の一言のお陰です。
人を生かすことができる言葉を下さる方は本当に神様みたいな存在です。
言葉に出さなくても読んでくださる方も同じ。
大きな感謝を込めて。
あと残り一話。どうぞお付き合いくださいませ。
ねここ