イフリートを探して
タピア公爵家は姉と弟の二人姉弟だと聞いていた。
エリアスは炎の公爵家、タピア家のことを考えていた。
神の契約から言うと、エリアスと同じ歳の弟が当然後継者として発表されると思っていた。が、十四歳ギリギリまで後継者の発表がなく、ようやくレオン・タピアが後継者だと発表された。それと同時期にレオンの姉が急病で死んだと聞いた。
他の公爵家と違い不可解なことばかり続くタピア家。セリオも六ヶ月後に迫った十四歳の招集でタピア家の後継者レオンに注意を払っていた。
イフリートはレオン・タピアを主人としている可能性が高い。けれど、エリアスの方がレオン・タピアより数ヶ月早く生まれている。イフリートがエリアスが生まれたのを無視し、レオン・タピアを選ぶとは考えられないのだ。心のどこかで亡くなったレオンの姉、クララ・タピアがイフリートの主人かもしれないと考えていたが、そうだった場合イフリートは間違いなくクララが死んだ時にエリアスを主人として選ぶ。でもそれも無かった。
(一体イフリートはどこに、誰を主人としているのだろうか)
いずれにせよ六カ月後には判明するとエリアスは思っていた。
エリアスが十四になった時、神殿の地下、音のない世界での戦いが始まった。
時々、気が狂いそうになるほどの静けさに全てがどうでも良くなった。全てを投げ出したい。そんな時あのナイアデスの泉に行く。いや、毎月あの泉に行きフランシスカの事を思い出していた。今はエリアスとして生きているが、ルカスを最後の瞬間まで愛したフランシスカを忘れることはできない。もう一度生まれ変わった彼女に会えるのならもう二度と忘れることがないように、例え忘れたとしても思い出せるように自分の心臓の上に生まれ変わった彼女の名前を刻むと決めている。けれど、今回の人生で彼女に会える可能性は低い。彼女に会えないのならこの人生はこれまで通りこのループに沿って生きる。会えるその日までこの呪いのような神との誓約、気が狂いそうになるほどの孤独と静寂に耐えるしかない。エリアスはそう覚悟していた。
イフリートのいない戦いは慣れるまでは厄介だった。イフリートが居ればすぐに終わる戦いを数日かけて戦い、精魂使い果たし回復するまで相当な時間が必要だった。しかし次第に慣れ毎月数時間で元の世界に戻ることが出来るようになった。けれどその意味は精霊王の力が弱くなりつつあるということ。
戦いに慣れても音のない世界になれることはなかった。圧倒的な孤独。深い後悔。底なし沼に引き摺り込まれるような感覚。毎月のことだが禊を済まし神殿に行く自分は何を、何のために生きているのだろうとエリアスは思っていた。
それから程なくし、十四歳の招集があり、ようやく世間に出られる日が来た。セルゲイはその頃からエリアスにピッタリと付き添うようになった。まるで近づくものを見極め排除しているかのように。
神との誓約上皇女として成人になる十八歳まで過ごす。各公爵家の次期当主を騙すかたちになるが、これも一連の流れであるから仕方がない。
エリアスは初めて四つの公爵家の時期当主たちは四つの公爵家の時期当主達に会った。カルロス、グロリア、ダフネを見た時は、一瞬二千年前にデジャヴしたように感じた。あの時神への反乱を起こそうとしたが失敗に終わった。だが、レオンはあの時のメンバーでは無かった。しかし、レオンが自己紹介をする時、あの瞳を見た瞬間、フランシスカの生まれ変わりだと感じた。しかし、レオンは男だ。一瞬混乱したエリアスだったが、さらに混乱する出来事が起きた。
レオンはイフリートを召喚した。