三歳の頃
エリアスが三歳になった時、庭園に咲く薔薇が見たいと言った。
セルゲイは神との誓約を守る為エリアスを他の人間に見られることを恐れ部屋から出ることを許さなかったが、唯一魔法の練習の時は深夜に城の裏にある森に出ることができた。その時を利用し、セリオはエリアスを抱き抱え庭園のバラ園に連れて行った。幼いエリアスは初めて訪れたこの庭園をわかっているかのようにトコトコとルカスの薔薇を目指し歩きその前で立ち止まり言った。
「私は待っているんだ。この薔薇の色が逆転する日を」
セリオはエリアスの言葉に頷いた。エリアスはその薔薇を手折り部屋に持ち帰った。
エリアスは三歳の頃から過去の自分を思い出していた。五百年前、ルカスとしてこの世に生まれ、最愛の人フランシスカを失い最終的にナイアデスの泉でルカスはフランシスカの亡骸を抱きしめ聖剣ミスティルテインで自決した。ナイアデスは泉の精霊の女王で初代ミラネス王家エリアスの母方の血筋だった。ルカスはナイアデスに願った。
『この永遠と続くループの中で新しく生まれ変わった愛する人に再び巡り会いたい、その願いが叶うなら精霊王の封印を解く』
エリアスはルカスの記憶を取り戻した時から、フランシスカの魂を探していたが、フランシスカがこの世界にいるのか居ないのかまだわからなかった。どんなに魔力が優れていてもそれはわからなかった。
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エリアスはとても賢く七歳で皇帝として学ぶべき全ての勉強を終えてしまった。それにさまざまな精霊の主人となり、魔力も恐ろしいほど高く初代エリアスの再来とセルゲイは喜んでいた。ミラネス王家に仕えるものは何千年も変わっていない。セリオのアルカイン家だけが二千年前と新しい。使用人、メイド、全てが神の意志によって動かされておりミラネス王家の秘密が外部に漏れることはない。エリアスは皇帝のたった一人の子供だったゆえ、十四歳から皇女として神殿に仕えなければならなかった。これも長い歴史の中であることだった。
その頃からセリオはエリアスにさまざまな魔法を教え始めた。エリアスは難解な魔法も難なく覚え、自分の姿を消す魔法も覚えた。それ以来エリアスは時間さえあれば庭園の薔薇の前に行き薔薇を見つめ、唯一神の力が及ばない図書室で過ごすことが多くなった。セルゲイはエリアスのその能力を知らず、自分の思うような美しい皇帝に育ちつつあるエリアスに心酔して行った。
一方エリアスはルカスの頃の記憶が鮮明になるほど神に対する嫌悪感が強くなっていた。しかし今回のループでどんな出会いがあるのかわからない間は、ミラネス王家に課せられた神との誓約を守ることにした。エリアスは幼いながらにこの人生を見定めていた。
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それから時はすぎ、各公爵家の次期当主が発表される中、タピア家がなかなか発表しない事をエリアスとセリオは疑問に思っていた。