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真逆に見える真実

 一見普通に安置されている様に見えるセリオだが、クララにははっきりと見えた。神の糸でぐるぐるに縛られたセリオの姿、胸に神の聖剣エクスカリバーが刺さっている。

 クララは顔色を変え走り出し、目の前にいるエリアス達を押し退けた。エリアスとクルスは邪魔だと言わんばかりの勢いで押し倒され、呆然とクララを見る。そんな手荒な扱いを二人は未だかつて受けたことがない。だが怒りなどはない。ただ、クララが普通の状態ではない事がエリアスは気になった。

 クララは二人に謝罪すること無く真っ直ぐにセリオに向かい走ってゆく。


「セリオ様!!」

 クララはセリオの名前を叫んだ。返事はない。

「ああ、セリオ様、すぐに、今すぐに助けます!」

 クララは徐に、

「セニサ!」

 と唱え炎の魔法を使いセリオを縛り付けている神の糸を灰にした。そして震える手で胸に突き刺さっている聖剣エクスカリバーを抜こうとした。


「クララ?!何をしている!!」

 エリアスはその行動を見て心臓が止まりそうになりすぐさまクララを追いかけた。

 (なぜ?クララはセリオに攻撃を?!)

 頭が混乱する。

 (あんなにセリオを尊敬し信頼していたクララが?!)

 すぐに拘束魔法でクララを取り押さえようとしたがクララはそれを断ち切り、持っているナイフでセリオの心臓を刺した。

 神の使いである聖女クルスのそばにいるエリアスには真実がねじ曲がって見える。エリアスはその現実に気が付かないほど洗脳に近い状態に陥っていた。

「なっ……クララ!!何を?!」

 エリアスは最高の拘束魔法クララを拘束しようと呪文を唱えた。


 クララはセリオの胸に刺さるエクスカリバーを抜き、すぐに胸の中にある紫の魔法石をセリオの胸に当てた。魔法石が光る。そして時の石をセリオの首にかけた。


 ドーン、ゴゴゴッ!!


 その瞬間神殿が崩れるほとの地震が起った。神殿の内壁が落ちてくる。

 強烈な、紫色の光が神殿を包み何も見えなくなった。

「セリオ様!!」

 クララは眩い光に瞳を閉じた時、エリアスの強烈な拘束魔法で捕らえられた。


「クララ……なぜ、なぜセリオを攻撃したんだ……」

 エリアスは苦悶の表情を浮かべ体を、魔法の縄で縛られ横たわるクララを見下ろし力無く言った。

 クララは瞳を閉じ何も言わない。エリアスはクララが大きな過ちを犯したことに衝撃を受けている。「エリアス様、私の予知夢の通りクララが、タピア公爵家が裏切ったのです」

 クルスは聖女らしくない冷たい表情を浮かべクララを一瞥し、悲しげに涙を浮かべエリアスを見つめた。

「タピア公爵を、地下牢、に」

 エリアスは言葉に詰まりながら神殿に集まってきた兵士に言った。クララは魔法で拘束されたまま兵士に体を抑えられそのまま地下牢に入れられた。


 クララは後ろ手に縛られた手を握り覚悟をした。聖女クルスがエリアスの近くにいる限り、クララが何をしても真実は捻じ曲げられる。聖女の意思ではなく神の意志だ。


 エリアス様は私に拘束魔法を使った。動けないようにし、今も拘束は続いている。でもこの魔法を私は解除できる。セリオ様、なぜあんな姿に。もしかしてこの二年ずっと神に拘束され命を奪われかけていた?あの魔法石がセリオ様のものだとセリオ様を見た瞬間わかった。なぜなら心臓にあの紫の光が見えたから。庭園で拾ったのも偶然じゃない。セリオ様は私のところに来てくれた。そしてセリオ様は私を覚えていてくれている。確信した。数日もすればセリオ様は目覚める。私は死ぬわけにはいかない。幸いここは城の地下、神が精霊王を封印するのに使った水晶がこのすぐ下にある。少しでも良いからこの水晶を壊そう。エリアス様ごめんなさい、魔法を……解除します。


 クララは拘束魔法を解除し、神経を集中させた。この城の土台である水晶は何層もあり、一枚ではなかった。この層一つ一つに亀裂を入れるためクララは繰り返し炎の魔法エクスプロシオンを唱え爆破させていった。爆破が起きるたび城は揺れた。

 そしてあることに気がついた。この城の図書室がある場所の水晶はすでに割れていた。あの有機的な暖かい空間はこの城で唯一神が監視できない空間だった。だからあの部屋でエリアスが皆に真実の話をしたのだとわかった。あの部屋でなければ、神を裏切る話が出来なかったのだ。


 その頃ナバス帝国は大騒ぎになっていた。

「タピアが王家を裏切った!!」

 連日貴族会議が開かれクララをどのような処分にするのか検討されていた。クララの処分を反対するのは三つの公爵家。カルロス、グロリア、ダフネだ。

「クララは、タピア公爵は絶対に裏切らない、何か理由がある筈だ」

「タピアが裏切ったならば庭園の薔薇は、フランシスカのバラが枯れるはず、枯れていないのが証拠です」

「タピアが裏切るなんてそんな理由一つもありません、私は信じます!」

 議会は真っ二つの割れた。クララに関わっていた人間は無実を信じ、それ以外は反逆者だという。


 エリアスはあの神殿で見たことをもう一度思い出そうとした。あの時クララはセリオの名を呼び、『今すぐ助けます』と言った。そしてセニサを使いセリオを攻撃……した?セニサは対象物を灰にする。セリオは灰になっていない。そして心臓に剣を……しかしあの後落ちていたのは聖剣エクスカリバー。エクスカリバーはなぜ落ちていたんだ?その後、セリオは完全に息を吹き返し、時の魔法を使い神殿から消えた。

 見えている事と現実が違う?


 クララは何をしたんだ?クララが私を裏切るわけがないと思っていたが、もしそうだとしたら、なにか、理由がある?なぜなんだ?クララの事を考えれば考えるほど疑問が浮かぶ。

 クララ以外の事で疑問がある物事は何一つない。いつも彼女だけ異次元にいるように感じる。

 けれどクララの事を考えても何を考えたのか覚えていない自分がいる。

 きっとこれも忘れてしまう。


 なぜ忘れてしまうんだ?


 エリアスはクララを議会に呼ぶことにした。しかしクララは拒否をした。そんな時間はない。クララは二十二歳になっていた。フランシスカは二十二歳と三ヶ月で死んだ。なりふり構っていられない。クララは昼夜問わず水晶を破壊し続け、疲れたところを見計らったように、強烈な拘束魔法をかけられ議会に連れてゆかれた。

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