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クララと聖女

 クララは帝都のタピア公爵家で正装に着替え城に行った。思い当たる事は何も無い。前回エリアスに愛の誓いをして以来の城。気まずくエリアスがいない事を祈ったが、呼び出すイコールエリアスから、しかも命令だ。逃げることのできない呼び出しに複雑な気持ちになった。

 (一体なにが起きたのだろう?私が手に入れた精霊に関係あるのかしら?)

 クララは城に到着し、その足で神殿に案内された。よりによって神殿、何かが起きる。そんな予感がし、覚悟を決めた。


「ここからお入り下さい」

 案内の使用人にドアを開けてもらいクララは神殿に入った。神殿にはエリアスがいた。

 何度見てもエリアスの姿にときめく。周りの景色がぼやけエリアスだけが浮かび上がって見える。

「クララ・タピアでございます。」

 クララはエリアスの姿に込み上げるものを堪え頭を下げた。

「タピア公爵、久しぶりだな」

 その声を聞いて両手を握りしめる。クララと呼ばないエリアスに距離を感じた。そしてエリアスの声。何万回も思い出した声。胸が苦しくなった。

 クララは息を止めゆっくりと顔をあげエリアスを見た。エリアスが優しい眼差しでクララを見つめている。しかし、その隣に神の使い聖女クルスがいた。

 聖女クルスは真白な髪にピンクの瞳、肌は透明感があり、その表情は神の使いに相応しいほど慈愛に満ち穏やかだ。とても美しくエリアスの隣に並んだ姿は何の違和感もない。聖女は慈しむような眼差しでクララを見ていた。


 そんな眼差しで見られると自分が罪を犯している人間に思えるのが不思議だ。

 (私はそんな眼差しは要らない。)

 クララは聖女クルスを睨むように見返した。クルスはクララの眼差しに驚き後ずさった。そんな眼差しで見られたことがないと言うような悲しそうな表情を浮かべエリアスを見た。


 クララはそんなクルスを見て心がざわついた。恋のライバルといえばそれまでだが、エリアスと並んで立てる身分だと見せつけられたように感じた。そしてクララの眼差しに傷ついたような顔をしエリアスに訴える姿はまるで媚を売っているかのように見える。だがエリアスもクルスの視線に気が付き、クルスに向かって優しく微笑んだ。

 そんな二人を見たクララは自分がやろうとしていることは、穏やかに見える二人の世界を壊す悪魔のような行為かもしれない、そんな考えが頭をよぎった。

 (いいえ違う、私が愛したエリアス様はそんなことを望んでいなかった)

 クララは手を握りしめた。


「……今日はご命令ということで急ぎ参りました」

 (この場にいたくない。早く要件が知りたい。この神殿にいると全てを壊したくなる)

 そんな思いを胸にエリアスに言った。


「クララ、この神殿の神の像を見てくれ、瞳が崩れ、羽が落ちた。何か知らないかと思い……」

 エリアスはクララを見つめた。目の前にいるクララは唇を結び、何かを堪えているような表情をしている。エリアスはそんなクララを見つめながら自分が自分でないように感じていた。


 (あの日、愛を誓ってくれたクララを私は……愛していた。だが記憶がない。もう一度彼女との接点を考えた。けれど、考えていた筈だが記憶が途絶え、何を考えていたかさえ忘れ、今ここにいる……私はこんな事をクララに言いたいわけじゃ無い。本当はなぜあの日私に愛を誓ってくれたのか、私たちに何があったのか、聞きたいことは別にある。なのになぜ心と裏腹にこんな言葉が口から出てくるのだ?)

 エリアスは胸に刻んだクララの名前を手で押さた。自分自身がわからない。


 クララは崩れた神の像を見た。真実を見極める瞳を目隠しし、真実を見せないようにしていたこの神の像は羽がもがれた。神はもう真実を隠せない、もう飛べない。

「これが私と何の関係があるのでしょうか?」

 クララは言った。その言葉に反応したのはクルスだ。

「クララ、私は予知夢で見たのです。炎に薔薇を背負った後ろ姿、燃える城、、」

 聖女はそう言ってエリアスを見た。クララはその言葉を聞き堪えきれない怒りに近い気持ちを吐き出した。

「聖女様。私は何もしておりません。それなのに予知夢見たからと言って、私を命令で呼び出すようにエリアス様に仰ったのですか?」

 クララは怒りで声が震えそうになるのを堪え言った。

「クララ、違う、聖女はそんな意味で言ったのではない。クララを疑っていない。私がクララを呼び出したのだ。聖女は関係ない、彼女を責めないでくれ。それに、クララが私を裏切り陥れようとするはずがない、そうであろう?」

 そのエリアスの言葉はクララを奈落に突き落とした。

 (ああ、エリアス様は聖女を庇うのね。私がしようとしていることは全てを忘れた今のエリアス様にとって反逆行為に感じること。裏切だと感じる行為なのね)

 クララは分かってはいたが、目の前が真っ暗になった。もうあの日のエリアスはいない。溢れそうになる涙を我慢し沈黙した。一言でも声を発すればエリアスを責める言葉しか出てこない。

 (なぜ?どうして?五百年待ったと言ったじゃない!!エリアス様、私は何の為にこんな思いをしているの?)

 けれど、どんなに嘆いても責めてもエリアスは記憶をなくし、クララのやろうとしていることを何一つ覚えていないのだ。分かり合えることは二度とない。


「私はこれを破壊しておりませんし、エリアス様を裏切ることはありません。これ以上お話がなければ失礼してよろしいでしょうか?」

 クララはそう言って頭を下げ溢れそうになる感情を押し殺し神殿をでた。


 

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